池谷裕二

Profile

1970年、静岡県生まれ。 神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究する。 最新の脳科学の知見をわかりやすく紹介する一般向けの書籍を多く執筆しており、ほとんどの著書が中国語・韓国語・台湾語に翻訳出版されている。 その活動スタイルは新聞紙上で「ネオ理系」と評されたこともある。 著書に『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)『脳はこんなに悩ましい』(中村うさぎとの共著。新潮社)、『進化しすぎた脳』(講談社)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮社)など。
【公式サイト】http://gaya.jp/

Book Information

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「すべてを電子に置き換えることはできない」ことを理解して電子書籍を楽しむ。


――池谷さんのように書籍をiPadに入れて読まれるユーザーは多いと思うんですが、その読み方に関して何か特別なお気持ちはございますか?


池谷裕二氏: 時間の経過が排除されているのが電子書籍だと思います。一方、紙は劣化するし、虫にも喰われる。日に当たったら変色するし、角が丸まってくる。本にはそうした時間経過という軸がありますが、電子書籍にはそれがない。電子書籍は「物」ではなくて、ただの情報媒体だからです。私たちは時間の中で生きています。時間の経過を感じるのは脳の働きの1つですが、その時間が電子書籍から排除されていることをきちんと知らなければいけない。電子媒体は素晴らしい媒体ですが、それだけですべての「モノ」を保管できるわけではないことを、きちんと理解した上で楽しむことが大切だと思います。

――時間の経過ですか。


池谷裕二氏: 古くならないことは、良いことととらえるのが普通だと思いますが、良いことばかりではない。本の質感から四季や日夜などの「時間」を感じますが、電子書籍にはそういうことがない。昔だったら夜は暗くて本が読めなかったのが、今は真っ暗闇でも読める。これはつまり朝昼晩の時間を排除しているということなのです。だから電子書籍は、その時間感覚の欠除を知った上で楽しまないといけないというのが私の持論です。



電子時代の出版社や編集者の役割とは文明をデザインすること。


――本を出すこと以外で出版社や編集者の役割は、どんなところにあると思いますか?


池谷裕二氏: もちろん人材発掘もそうですが、未来の活字文化、文明それ自体をデザインするのかなと私は思います。おそらく紙媒体は、早々にほぼ駆逐される、となると次に代わるものは何なのか。電子化されるとなると「では、インターネットやテレビのような他のメディアとどう違うのか」など、そういったことさえも総合的にデザインしていけるのが、これからの編集者だと私は思っています。

――そういう資質やそういう能力が求められるのですね。


池谷裕二氏: 求められるし、今やっていることがそのまま自然とそうなっていくのではないかなとも思います。誰か1人とびぬけるというよりは、皆で模索しながらいくと、自然と自己促進的に新しい次世代の文明や文化、流行や時勢ができてくるはずです。そうした自己組織化現象が、必要に応じて今度はテクノロジーを刺激します。「そういうコンセプトがあるのならば、もっと薄くしてみよう、新しいアプリを考えてみよう」という風になる。そうやって次の文明を引っ張っていくリーダーとして、編集者という職業が、絶対に必要だと私は思っています。

――そういう意味では出版社にもそのような役割があるんじゃないかと思いますが。


池谷裕二氏: あります。ちなみに私自身も、まさに講談社のブルーバックスの編集者に引っ張っていただいたのです。私のホームページを見て、「池谷さん、面白いことをホームページに書いていますね」と言われて、その気になっていたら、「ならば本にしない?」というのが始まりだったのです。

――それがきっかけだったんですね。


池谷裕二氏: そうやって研究界に潜んでいた私を見つけてくださったわけです。ただの研究者で終わるはずだったのが、今こうしてインタビューをしていただけるようにまでなったのは、その編集者の方の力添えがあればこそですね。

派手なことは嫌い。研究をしながら良いエンドユーザーであることを目指す。


――今後の展望をお聞かせください。


池谷裕二氏: 今は、研究が面白いからできれば研究だけに専念したいと思っています。週刊誌で連載をしたり、授業などで人に伝えたりすること自体は好きではありますが、派手なことはあまりやりたくない。むしろ私はエンドユーザーでありたいです。発信する側よりは、発信されたものを、よりよく読む側でありたいというのが本音です。そんなふうに過ごすことに憧れています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『大学教授』 『科学』 『研究』 『脳』 『音声』

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