電子書籍は読書障害のサポートに役立つか?
――池谷さんは読書障害をお持ちだとおっしゃいましたが、今日は電子書籍が読書障害をどうサポートできるかというお話もさせていただきたいと思います。
池谷裕二氏: 私は本をあまり読まないから、電子書籍もそれほど読みません。オーディオブックは英語のものが多いですがたまに聞きます。電子書籍はまだ少ないけれど、理系の本は図の解説だけだと理解しにくいので、アニメーションになっているとわかりやすいと思います。電子書籍はオールカラーにできるという点もいいと思います。
――今も日本語のオーディオブックは少ないのでしょうか?
池谷裕二氏: 私は耳で聞く方がいいのでもっと欲しいです。例えば明治・大正・昭和初期の古典小説がもっとあればいいと思います。目の見えない方のコミュニティー向けに起こしているものがあるそうですが、著作権の関係でネット上には出てこないので、もったいないなと思います。私のように文字を読むのが苦手な人もいるわけで、目の見えない人だけが文字を読めないわけではない。入試の現代文の問題やセンター試験の問題文を、時間内に最後まで読めない。現代文は異常に長く感じるのですが、漢文や古文は短いから得意でした。だから文字を読むのが不得意な人向けに、夏目漱石や太宰治の古典がオーディオブックになっていたら良いと思います。電子書籍を読み上げてくれる機能は現状ではまだ不十分ですが、この機能がさらに進化すれば、本当に助かると思います。
――実はBOOKSCANも本が読めない方向けに、音声読み上げ機能を研究室の方で一緒に開発しております。
池谷裕二氏: 素晴らしいです。わかる程度に読んでくれればいいので、完璧でなくてもいい。英語には、AdobeのPDF音読など、すぐれた機能を備えたものが出始めていますね。
電子書籍の可能性は「ペーパー」だけじゃない。
――電子書籍の可能性というと、いかに本に近づけるかという風に語られがちだと思うのですが。
池谷裕二氏: どうやって本に近づけるのかを考えるのはアナログ世代です。もし本に近づけるのではれば、私は、紙であることの重要性があると思っています。電子ブックは固いですから。紙ならば折ってもいいし、必要ならさつまいもを包んでもいいし、困ったらお尻をふいてもいい(笑)。そのくらいまで紙に徹底した電子ペーパーがほしい。あとはホログラムがもっと進化するはずですので、シアターみたいなのができてもいいかなと思います。ペーパーと言うと2次元のイメージがありますが、風呂敷のようになっていて、広げたら3Dになっていると面白いです。今は無理でも、最終的にはそこまで行ってほしいと思います。
iPadは論文持ち歩きには欠かせないデバイス。
――iPadはどのように使われていますか?
池谷裕二氏: 「著書の○○ページに書いてあることは、どういうことでしょうか」と読者からメールで問い合わせがきた時に、すぐに答えられるように、自分の本は、自分でiPadに入れて常に持ち歩いています。そのために電子化しています。実は、本としては、あとは青空文庫くらいしか入れておらず、あとはエバーノートで論文を持ち歩いています。私は、朝起きたら論文をチェックするのが日課で、毎日100本は論文をチェックします。「これは重要そうだな」と思ったらコンピューターの中にフォルダに入れておくと、iPadと同期される。ここに追加されるのは1週間に2、3本ずつくらいですが、全体で多分2、3000本は入っています。自分の研究分野に関係があるような重要な論文は、いつでも引き出せるようになっています。地方の学会に行くと、夜、研究仲間と飲みながら「あの論文にデータが出ていたよね」などとディスカッションする。「3段落目のあの文章は読んだ?」「あれは仮説がすぎるよね?」など、皆で話すときに、電子化してあれば論文をその場で出せる。論文を何千本も持ち歩くのは難しいし、いつどれが必要になるかわからない。私はもう老眼が始まっているから、iPadですと、現物の論文よりも文字を自在に拡大できるのもうれしいです。
――フォントの大きさが、自由自在に変えられるのですね。
池谷裕二氏: 赤線も引くことができますね。しかし何より検索できるのが大きい。知らない単語も内蔵辞書でワンタッチ。あっという間に引けたりする便利さでは、電子書籍は紙をはるかに超えていると思います
――論文の閲覧も電子書籍として含めるとすれば、池谷さんは電子書籍を大いに駆使されていますね。
池谷裕二氏: そうですね。毎日使っています。あと余談ですが、私は小学校5年生の時からずっとクラシック音楽が好きで、楽譜を3000曲くらいiPadに入れて持ち歩いている楽譜フェチです。教科書や楽譜はスキャンスナップでスキャンしています。私は音楽をただ聴くのではなく、楽譜を見ながら聞くのが好きなのです。作曲家別に分類しながら3000曲入れておくと、新しい時代から古い時代まで、大体の名曲がカバーできます。以前は楽譜を本棚に入れていました。今は本棚がだいぶ空きました。手持ちのCDもすべて音楽データに変換したので、かなり家がスカスカになりました。
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