著作権の概念を教育する必要がある
――電子書籍はお読みになっていますか?
小林泰三氏: 電子書籍自体は、まだリーダーを持っていないので読んでいません。それは別にポリシーがあるわけではなく、たまたま持っていない。携帯の買い換えのタイミングが悪くて、ガラケーです。家に帰ればパソコンがあるので、iPadとかを買うモチベーションもなかなかないです。
――電子書籍の可能性について、どうお感じになっていますか?
小林泰三氏: 本をたくさん読む人にとって一番の問題なのは、物理的なスペースが足りなくなってくることです。本そのものが好きな人、本マニアの人は、紙の本がいると思いますが、とにかくこの小説が読みたいとか、読むことが大事だという人は、実体としてある必要はなくて、それをネット上に置いておいて、パソコンとかiPadで読むことができればそれでいいということになってくると思います。あとは、短編のばら売りとかもできます。得なのか損なのかはわからないですけれども、10個まとめて短編集として売ることもできるし、1本ずつ売ることもできる。今までは短編1冊、10ページの本に値段をつけて売ることは、たぶん不可能ですね。昔、豆本で、150円ぐらいの、100ページぐらいの本というのもありましたが、あれもだんだん消えましたね。
――紙の本をスキャンして電子化することについては、どのようにお考えですか?
小林泰三氏: 出版としての電子書籍であれば、コピーに当然規制がかけられると思う。でも、普通の本をPDF化するのは、その中間形態なので難しいところです。昔、レンタルレコード問題がありましたが、それと同じように、自分が買った本をPDFにすること自体は問題ない。ただ、善意からそのPDFを人にあげることがある。悪意じゃないところが怖いところで、貸してよって言われた時に断れない。それで今後は、ちょうだいっていう話になって、これも断れない。「著作権があるからだめ」ということは、友達同士では言えないでしょう。しかも友達同士で収まればまだいいのですが、友達の友達に広がる可能性が捨てきれない。しかもそこまでいっても悪意がない。それを高圧的に止めるというのも難しい。スキャン自体を禁止はできないですし、消滅することは絶対にない。読者の方も、自分がそういうことをすると、将来の出版業界がしぼんでいくことをイメージするのは難しいから、そこをどうしていくかというのがこれからの課題だと思います。人間は賢いのでなんらかの解決策はできていくと思っています。
――例えば、どういった解決策が考えられるでしょうか?
小林泰三氏: 著作権に関する教育をしていく必要があると思います。著作権というのは、そもそも最初から存在するものじゃなくて、人間が作った権利であることをとらえきれていない人も結構いると思う。例えば、小説を書きました、それを勝手にコピーしました、という時に、「なんであかんねん?自分の金を出してコピーしてるねん」とか「作家なんてインク代しかかかってへんやないか、なんで価値があんねん」という考え方もおそらくあると思うんです。つまり世の中の同意が、完全に出来ていない。書籍に限らず音楽も映画もそうです。音楽と映画は情報量が多いわりに、わりと容易にコピーできる。どっちかというと書籍のデータ化の方が、本をバラすとか、邪魔くさい。音楽産業が落ち込んだのは、コピーが容易にできたことが大きい。教育で、著作権というものがあります、というところから始めなくてはならない。
著書一覧『 小林泰三 』