小林泰三

Profile

1962年、京都府生まれ。 大阪大学基礎工学部卒業、同大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了。 1995年に『玩具修理者』(角川書店)で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。以後、先端科学知識とグロテスクなホラー描写の融合した小説を数多く発表する。 また、ホラーだけでなく、『海を見る人』や『天体の回転について』(ともに早川書房)などのSFや、ミステリーや恋愛など様々なジャンルを手掛ける。2012年『天獄と地国』で第43回星雲賞日本長編部門受賞。 近著に『見晴らしのいい密室』(早川書房)、『惨劇アルバム』(光文社)、『大きな森の小さな密室』(東京創元社)など。
【公式サイト】 小林泰三の不確定領域

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出版業界に感じる「迷い」


――本づくりの現場、出版業界には変化はあるでしょうか?


小林泰三氏: 出版社・編集者の役割は常に変化していっていると思います。私が作家になってからも少しずつ、出版社の役割というのは変わってきているし、ネットが普及してきたここ10年くらいでも大きく変わりました。私が作家になった直後は、編集者も作家もメールを使えないっていう人が多かった。私より10年上になってくると、今でも使えない人の方が多いんじゃないですかね。今でも原稿をFAXとか宅配便とかでやり取りされている。でもわれわれより後の世代、50代以下はほぼメールが使えるし、入稿も全部、基本的にデータ上でやっている。そして、最後の最後にそれをデータから紙にして出版していますが、これからはそのまま電子出版にするという選択肢がある。電子出版の準備は整っていると思います。私の原稿も電子データで出版社には存在していると思いますので、誰かがGOを出せばすぐ電子化できるという状態にはなっているでしょう。実際何冊かは電子化されています。

――電子書籍はコンテンツ不足とも言われますが、普及への障害があるのでしょうか?


小林泰三氏: 著作権問題をどうクリアするかが大きいと思います。あと課金制度をどうするかということです。今までの既得権というか、そこでお金をもうけていた人たちの仕事がなくなる。直接的には、本屋さんがどうやってもうければいいかとか、あとは取り次ぎとか、細かいところで言いますと製紙業界や倉庫業、印刷所も困ってくる。出版社も方向性をどう見るかというのがあって、今までの本は、単行本を出して、それが新書になって文庫になって、という流れがあります。それは単に古い物を安くしていくという面もある。同じもので値段を下げることができないので、形態を変えて安くしていくという方向です。その延長線上に電子書籍もあるという考えもあります。初めは単行本で出して新書を文庫にして、最終的に電子書籍で、だんだん値段を下げて売れる。それは一つの方向性、考え方です。
もう一つは、紙と電子はパラレルなものであって、電子書籍は電子書籍で売る、本は本で同時に売る。この二つの考え方があって、たぶん出版社も悩んでいるのではないかと思います。本と電子書籍を同時発売というパターンも多いんですが、そうじゃなくて昔に発売したものだけを電子書籍にするというパターンもあって、その二本立てで出版社も、迷いながらやっているように見えます。

新しいジャンルにトライしたい


――作家にとっても、電子書籍でどのように売り上げが還元されるのか、不安を持っている方も多いのではないでしょうか?


小林泰三氏: 今まで出版界は適当だったんです。ほかの業態じゃありえないと思いますが、お金をいくらもらえるかわからないで仕事を始めるとか、出版する時も、値段はいくらで何万部出しますという話も、決まっていない時がある。作家はあまり気にしない人がいるので、ふたをあけてビックリという話もたまに聞きます。

――ビックリというのは?


小林泰三氏: あまりにも少なくてビックリする。原稿料も「1枚なんぼですか?」って聞きづらいところがあって、知り合いの作家で、「何枚書いてください」と言われて書いて出して、それっきりになったので、「すみません、原稿料は?」って言ったら、「あれは原稿料なしです」ということがあったそうです。それはさすがに怒ったらしいですけど。推理作家協会とかでは、それはよくないから、これからは最初に確認しよう、という方向になっています。
印税率も問題はあって、紙の10%というのはかなり長い歴史があって、やっと収束していったもので、私が作家になる頃にはほぼ10%だったのですけど、本というのは作家の分、出版社の分、印刷屋さんの分、本屋さんの分、製本屋さんの分というのを、1冊の本を売るごとに分担しているので、電子出版になれば、当然なくなっている分が出てきます。それでも作家の分が10%なのはおかしいという議論もあります。

――最後に、小林さんご自身の作品について、展望をお聞かせください。


小林泰三氏: 私は飽きっぽくて、同じものばっかり書いているのはイヤなので、色々なものを書いていきたい。ただ、変わったものを書くと、前の方が良かったとか、昔からのファンが嫌がるところもあって、ちょっとそこは難しいところです。アクション的なものを書くと、ドロドロしたやつを書いてとか(笑)。ミステリーとホラーは、重なっているところもあるんですけど、ちょっとずれているところもあって、今までホラーの方しか書いていなくて、ミステリーを書いてもホラーの読者にしか届いていなかったのが、一昨年の『大きな森の小さな密室』で、ミステリーの読者が気付いてくれたみたいで、ミステリーもちょっと書きやすくなった感じです。SFの読者もちょっと前から気付いてくれるので、その辺は書きやすくなってきたかなと思っています。



ホラーとミステリー、SFと書いてきましたが、今後は、ファンタジーミステリー的なものを書こうと思っています。そっち方向も今、ちょっと楽しいかなと。まだやっていない歴史物とかも、そのうちトライしたいです。歴史物をやるためには資料集めをやらないといけないので、ちょっと時間がかかると思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『アイディア』 『可能性』 『きっかけ』 『小説家』 『創作』

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