電子書籍にはいろいろと問題がある
――電子書籍の可能性も含めて、出版のこともお伺いできればと思います。
今一生氏: 大手出版社が音頭をとって出版社どうしのギルドのようなものを作り、統一ルールを作りました。電子書籍化に関して著者との出版契約の中に盛り込んで、紙の本で出したデータに関しては、発行元の出版社が自動的に電子書籍化をかけるということになりました。
出版社は、Kindleに出してもいいし、自社サーバーで売っても構わないんです。
たとえば、拙著『社会起業家に学べ』(アスキー・メディアワークス)はアスキー・メディアワークスのサーバーの下で売られる以外に、Kindleでも出ています。そういうふうに、紙の本で書いた本はそのまま電子書籍になるわけですが、そこにも問題があるんです。
――具体的にどのようなことが問題となっていますか?
今一生氏: まず、著者たちの意見が集約されないまま、出版社主導でルールが決められてしまったことです。
たとえば、拙著『「死ぬ自由」という名の救い』(河出書房新社)は紙では1600円で出している本ですが、電子書籍の場合、800円で売られています。出版契約時に相談はありますが、「電子出版では定価の50%」となっている部分の交渉を著者個人が出版社相手に延々と続けても、変更の余地は事実上、ありません。これは交渉の余地がないのと同じなので、黙ってサインするしかありません。
Kindleに出すなら200~300円にすればもっと売れるのに、なぜ800円の値付けをするのか。その根拠が曖昧で、よくわからないのです。著者が書籍を通じて付き合っているのは編集者ですが、編集者も社員ですから、上司のそのまた上の経営者の決めたことに従うしかありません。
――そういった問題も含め、良い方法はあるでしょうか?
今一生氏: 今後は、先に電子書籍のオリジナルコンテンツとして発表してから紙の本にした方がいいと考える著者が増えるかもしれません。Kindleのルールでは、ほぼ同じ中身のコンテンツは複数出せません。つまり、Aというコンテンツがあって、次に出す原稿がほぼAと内容が同じなら、A'だけじゃなくてAも降ろされてしまうんです。
ということは、Kindleで売れた本を紙の本として出版社から出せることになった場合、出版社自体がKindleで電子書籍化してしまうので、最初にKindleで売っていた元の原稿ファイルを引き上げておく必要が出てきます。それに備えるためには、Kindleなどの電子書籍で言えなかった内容を中心に紙の本で書き下ろすか、同じ原稿に見えないように、徹底的に表現自体を変えるしかありません。
Kindleは今後若手作家たちの登竜門になる
今一生氏: これから5年~10年の間に、Kindleオリジナル作家さんたちの中から、すごい才能を持った人が出て来ると思います。Kindleによる収益を拡大させるには、オリジナル作品を出してそこそこ売れる見込みがついたら、英語版や中国語版など言語バージョン違いを作って売る人も増えるでしょう。Amazon自身も、いつか多言語翻訳サービスをKindleで始めるのではないでしょうか。
将来を見据えるなら、電子書籍から上がってきた作家から青田買いして新人発掘をし、大切に育てていった方がいいと思います。売れている一般誌で「Kindle作家のトップスター」といった感じで取り上げて、50枚くらいの書き下ろしを同じ出版社の文芸誌で発表して、4点たまって200ページくらい構成できそうだなと思ったら1冊出す、といった流れになってくるのではないかと思います。
――登竜門としての電子書籍、ということですね。
今一生氏: そうです。「Kindleで有名になるとこうなりますよ」という成功事例を作るわけです。もしかしたら、その仕事は出版社ではなく、ITベンチャーかもしれませんし、タレント事務所かもしれません。
出版以外の業界の会社が出版社と組んで先例を作ったら、Kindle作家も「紙の本にしてもらえるかも」と期待でき、もっとプロ意識を持って電子書籍を出すようになると思います。
紙の本の出版だけではなかなか食えない今日、Kindleに膨大な数の作品を発表しても電子書籍の売上だけで食えるようになるのはずっと先の話でしょうから。
本自体は単なる入り口にすぎない
――今後、書き方に変化は生じてきそうですか?
今一生氏: 紙の本とKindleは、「どこで買うか」だけの違いです。むしろ大事なことはこのコンテンツとインターネットの連動だと思います。
僕の本『ソーシャルデザイン50の方法』にもいろいろな団体のサイトが載っていますが、資料サイトのリンクを全部載せていたら4ページくらいとってしまうから、僕の公式サイトにリンク集を載せています。そのように、紙面の制限で掲載が難しい内容を著者サイトへ誘導することでアフター・サービスのように提供する価値も考えなければいけない時代だと思います。
――本で載せられなかった部分を、インターネットで補うといった感じでしょうか。
今一生氏: そうです。入り口は本ですが、その後はオンラインでさらに情報を取り込めるように導線を作るわけです。僕のホームページのリンク集から、自分の興味のある団体の最新ブログを見れば、本を書いた時点までの情報よりも多くの情報を得られます。
僕の本を入り口にして、より新しい情報を知ることで、本の執筆時点では生まれていなかった新しい問題解決の仕組みに触れることができるのです。そこにこそ、今後の出版ビジネスが作り出せる新しい価値がある気がします。