研究に関しては電子書籍が不可欠
――電子書籍の可能性についてどのようにお考えですか?
荒井一博氏: まず研究で使う論文に関していえば、今は学術雑誌の多くが電子化されているので、研究するには電子ジャーナルがきわめて便利かつ不可欠になりました。論文を掲載している世界の主要ジャーナルが電子化されていて、パソコンでダウンロードすると論文を読むことができます。かつては論文1本を読むために、図書館で論文の掲載されているジャーナルを探し、論文を紙に複写して持ち帰るといったことをしていたので、1本の論文のコピーを得るのにおよそ20~30分かかっていました。最近書いた『喫煙と禁煙の健康経済学』では、何百という論文を扱ったんですが、それくらいの数になると紙媒体の論文を複写機でコピーして整理することはかなり難しくなります。しかし電子ジャーナルであれば、研究室でも自宅でも24時間パソコンでダウンロードできるので、時間的な節約が大いにできますし便利だと思います。
ある論文を読んでいると、それと関連した他の論文を読む必要が出てくることが頻繁に生じます。そうした論文はすぐに読みたいのですが、電子ジャーナルを使えばそれが可能になります。また、過去に読んだ論文のある個所を正確に引用する場合、あるいはどういう風に言っているのかもう一度確認したい場合も、紙に複写した数百の論文の中から当該論文の当該箇所を探し出すのは大変です。電子ジャーナルを使えば、著者名やキーワードによって極めて短時間で検索ができて大変便利です。
さらに、『喫煙と禁煙の健康経済学』のような経済学・心理学・医学などに関係する学際的な研究で、紙媒体の学術雑誌だけを使っていたのでは研究費用がばかになりません。通常、一つの図書館の紙媒体の蔵書だけでは学際的な研究に不十分で、自分の研究費を使って他大学から論文のコピーを取り寄せる必要が生じます。その点、電子ジャーナルならば広い学問分野がカバーされているので、紙にコピーした論文を他大学から取り寄せる必要がなくなり、研究費用が格段に少なくて済みます。ただ、パソコンの画面上で論文を読むのを私はあまり好まないので、プリンターで印刷してから読みます。印刷した論文は合計すると膨大な枚数になり、置き場所がないのでしばらくして処分します。
電子ジャーナルには、置き場所がいらないことや検索が容易なことなどの利点があります。読む論文に関しては、自分のパソコンが図書館になったようなものです。今ではもう紙媒体だけの論文を使っていたのでは、研究がスムーズにいかないと思います。
しかし、現時点では問題もあります。日本の学術雑誌にはまだ電子化されていないものもあり、紙に複写した論文を自分の大学の図書館を通して他大学の図書館から送ってもらわなければならない場合があります。かつて、一日に多数の論文の複写依頼をしたため、依頼件数を減らすようにと図書館から苦情を言われたことがあります。研究したことのある者ならば、気になる論文はいっときも早く見たくなることを理解できると思います。
寝転んで読む、という電子書籍の新しい読み方
――一般向けの電子書籍に関してはいかがですか?
荒井一博氏: 私はSonyのReaderとAmazonのKindle Paperwhite の2つの電子書籍端末を持っていますが、十分には使っていません。今のところ研究費で多くの書籍が購入できるので、電子書籍を購入することはあまりありませんし、電子化されている書籍も多くないと思います。ただし、無料あるいは廉価なものは時々ダウンロードして読んでいます。
――今後、電子書籍に対して期待していることはなんでしょうか?
荒井一博氏: 将来的には研究以外の読書時間を増やす予定でおり、廉価で場所をとらない電子書籍に大いに期待しています。新刊書に関していえば、現時点で価格は紙の本とあまり変わらないのですが、今後は電子書籍を低価格にしてもらいたいと希望しています。それから、過去に出版された書籍も、できるだけ電子化してほしいと感じます。
電子書籍を使った新しい発見なんですが、実は寝ながら読むのには紙の書籍よりも格段に便利なんです。ただし、私自身は寝ながら読むことが多くありません。紙の本だと、寝ながら読むときに常時手で本を開いていたり手でページをめくったりする必要があります。その点、電子書籍端末は寝ている目の前にうまく立てておけば、手で押さえていなくても読むことができます。また、画面を軽くタッチするだけでページをめくることができます。バックライト機能がついていると、なお便利だと思います。一日中寝転がって本を読みたいとき、就寝時に30分ほど本を読みたいとき、怪我や病気などで座って本が読めないときには、電子書籍に関するお勧めの読書法です。読みながら眠ってしまっても自動的に端末の電源が切れるので問題ありません。枕のそばに端末を立てるスタンドを作って販売したいくらいです。腕を動かさずに手に握ってページめくりや検索のできるリモコン、さらに目の動きで操作できる端末も作りたいものです。