起業への想いを胸に、ダイエー入社
――ダイエーではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
鳥原隆志氏: 入社して、お店の販売担当になりました。色々な売り場を担当させてもらったんですが、辞める時は、スーパーバイザーという仕事をやっていました。
私は入社式の時から「40歳までに会社を辞めて起業する」ということを決意していました。通勤でいつも通る幹線道路沿いの建物の中で、今の会社があるビルがこの付近では一番背が高かったので、「ここに自分の事務所ができたらいいな」とずっと思いながら車で走っていました。その夢が現実となり、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』ではありませんが、不思議なものだと感じています。
――ダイエーでどういったことを身につけたいと思われていましたか?
鳥原隆志氏: 自分は会社員として過ごすのではなくて、何か使命があるんだと思っていました。当時ダイエーは大きかったので、色々な仕事ができて、いつか必ず自分の好きな仕事に出会える会社だと思っていたので、給料をいただいて勉強ができるという感覚でいました。だからこそ嫌なことがあっても辞めることはありませんでした。周りには辞めていく人もいましたが、1年2年で、やっと教えてもらえるポジションになったところで辞めるわけですから、もったいないなと思っていました。どのような仕事でも、その後の道につながっているような気がします。私は物を販売する会社にいましたが、今書いている本も同じように、お客様が求めている本を書かないとやはり売れません。本は出版社や編集者、取次さんなど、多くの方が携わってできるものであって、1人で書いて、作るものではありません。大勢で仕事をするというのはどこの会社でも一緒だな、と思います。
昇格試験で、インバスケットと運命の出会い
――インバスケットに出会われたのは、どういったきっかけだったのでしょうか?
鳥原隆志氏: ダイエーの管理職の登用試験の中の1つに、インバスケットが入っていました。そのほかの試験は筆記試験で、答えがあってそれを記憶するといったものなのですが、インバスケットに関しては、人によってそれぞれ言うことが違うんです。先輩にアドバイスをいただこうと「どんな試験ですか?」と聞くと、「判断をする試験」だとか、「全ての業務をこなす試験」などと言われて、当時の私にはよく分かりませんでしたし、当時はインターネットや本でもインバスケットに関してはほとんど出てなかったので、本当にベールに包まれた試験でした。スーパーバイザーとして問題解決の判断を日々していましたから、楽勝だと思っていましたが、先輩から過去の問題集を見せてもらって勉強をした時は、全くできませんでした。しっかり判断しているつもりでも、先送りをしていたり、当たり障りのない判断をしていたり、表面的なことばかりやっていたり、ただ数をこなすことだけに力を入れていたりしている。自分の回答を見た時、「自分が評価者だったら、こいつは絶対管理者にしないな」と思ったんです。私はその昇格試験には合格したんですが、インバスケットのことについては自分の中でモヤモヤが残っていたので、そこから研究を始めることにしました。最終的に経営者になるという目標があったのですが、昇格試験という通過点で「経営者はおろか管理者にすらなれないのではないか」という自分への怒りがすごくあって、その怒りが当時の私のバネになっていた感じです。
――インバスケット・コンサルタントとして独立するまでの経緯を教えてください。
鳥原隆志氏: 独立を本当に意識し始めたのは、35歳くらいからです。30代前半までは、独立するという気持ちはありましたが、日々の仕事に追われていました。報酬も悪くはなかったし、人間関係もできていましたし、仕事も面白かったです。でも35歳くらいで、先程も話に出てきたナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』を読んだ時に、このままだと流される、と焦り出しました。でも、会社を辞めることはやはり怖かったです。立場もありますし、家庭もありますので報酬も必要です。太いクモの巣が体に絡み合っているといった状態で、後ろに引かれる圧力を感じながらも少しずつ前に進む感じでした。転機になったのは、やはりインバスケットでした。ブログなどで自分のことを発信し始めた時に、1人の会社員としてではなくて、一個人として、お客様が求めていることに取り組むことによって満足感を得るという体験をして、私の中で新しいビジネスが見えてきた感じでした。
――最終的に独立へと行動に移すことができたのは、なぜだったのでしょうか?
鳥原隆志氏: 私の中で期限を決めていたから、初めの一歩を踏み出すことができたのかもしれません。私は40歳までには独立すると決めていて、あとは何を道具として独立するかといったことだけだったのですが、たまたまインバスケットというキーワードに出会うことができました。仕事と自分の好きなことは異なるものだ、という考えもありますが、自分が好きで、なおかつ、お客様からも喜んでもらえるキーワードというものが必ずあると私は思っています。インバスケットも私だけが体験したわけじゃなくて、多くの方が管理職の試験として、もう15年くらい前から受けられていたものです。その出会いから、自分ができなかったところを頑張ろうと自分で思ったことが、今のビジネスと結び付いたわけなので、私自身は、インバスケットを多くの方にお伝えする使命をいただいたのだと思っています。
著書一覧『 鳥原隆志 』