本は、形のないものを形にする
――執筆されるようになったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
鳥原隆志氏: 本を出すことはあまり考えていませんでした。インバスケットを広めるためにはどうしたらいいのか考えていて、パンフレットやダイレクトメールはすぐに捨てられてしまうので、良い方法がないかとある知人に相談した時、「形がないものを、形のあるもので表すことが大事だ」と言われて、本を出すことを勧められました。でも、どう出したらいいか分からなかったのですが、たまたま書店で、タイトルは忘れましたが「本を出す本」といったものを見つけました。その本には、本を出す心構えから企画書の書き方、執筆、出版までのことが詳しく書いてありました。本を出すにはまず企画書、ということでまずは企画書を書くことにしました。
――企画書ではどのようなことをアピールされましたか?
鳥原隆志氏: 「インバスケットの本」というタイトルの企画書を出しても誰も手に取ってくれないだろうと思ったので、小売店にいた時と同じように「多くの企画の中から、いかにタイトルで手に取らせるか」ということを考えました。数字を付けると信ぴょう性が出るので「判断力が100倍良くなる本」などといった強烈なタイトルを付けたんです(笑)。どの出版社に送ろうかなと書棚を見た時に、出版社によって、柔らかい雰囲気、堅い雰囲気、あるいは権威的な感じといったように、本も雰囲気がそれぞれ違っていることに気が付きました。入門書なので、易しい、柔らかいイメージがいいなと思って、そういった雰囲気を持つ本を出されている会社に企画書を送らせていただきました。
――出版社の反応はいかがでしたか?
鳥原隆志氏: 7社にあてて送って、2週間待って音沙汰がなかったら、第2弾の出版社に送ろうと準備をしていましたが、今考えれば奇跡的かもしれませんが、数人の編集の方からお話をいただきました。インバスケットについて私と編集者は、素晴らしいものだなと共有できても、編集長さんや営業さんからの「インバスケットって何?」というところから始まるので、まず企画を通すのが大変だったので、最初に本を出した出版社の編集の方はすごく苦労されたようです。その編集の方はすごく好奇心旺盛で、「なぜこの企画を手に取ったんですか?」と聞いたら「インバスケットっていう字が、見たことない字だった」とおっしゃいました。その答えを聞いて、好奇心旺盛な方が多い素晴らしい業界だなと私は思いました。
メッセージを伝えるため、書き方に変化をつける
――そうやって初めて出版されたのが『究極の判断力を身につける インバスケット思考』ですね。
鳥原隆志氏: 1冊目の本のタイトルがギリギリまで決まらなくて、インバスケット思考は、本当に最終的に付いた言葉なのです。それまでは、物流企業の昇格試験、のようなタイトルで出される予定だったんです。編集者と編集長、社長さんをすごいな、と思ったのが、「インバスケット」という字を前面に出すことを決められたことです。かなり勇気が要ると思うんですが、インバスケットに火がつけば2冊目以降が出しやすいということを踏まえた上での、決断だったようです。私は1冊出せれば御の字だなと思っていましたが、出版社の社長さんから、「1冊出したら、2冊目は続編、3冊目はその解説書を書くことを考えて欲しい」と言われました。それが今も頭に残っていて、本を書いている時はもちろん1冊に集中するんですが、次の本のこともやはり考えています。
――本作りのプロから、得るものも多かったのでしょうか?
鳥原隆志氏: 良い出版社の方、良い編集者の方とお付き合いできたので、私は運が良かったと思っています。出版社の中には、「これと全く同じような形で書いてください」という企画をいただいたり、「ライターをつけますから、すぐ出しましょう」という、ビジネス色が強いと感じるところもありますが、私がお付き合いしている編集者の方はすごく本が好きで、読者を第一に考えている方が多いです。逆に、吟味されて出すというより、フィーリングで「こんな感じにしましょう」というのが本になることもあるので、それが出版の面白いところです。最初は「この本を誰が読むの」という感じの本が、「今までになかったから面白い」という観点から、どんどんと変化していくその過程は勉強になります。
――編集者さんとは企画や著述の仕方など、綿密に話し合われますか?
鳥原隆志氏: 編集者にも色々なタイプの方がいらっしゃいます。まずお会いするところから始めるんですが、出版社の名前や企画よりも、その方とフィーリングが合うかどうか、ということが大事です。といっても、一緒に仲良く作っていこうというばかりではなく、時に言い合い、けんかもしながら、主張し合いながら作っていくこともあります。ワンフレーズだけで2時間くらい話し合ったこともあります。企画をいただいた時でも、「書きたいものを書いてください」というよりも、お互いに持ち寄ったものをぶつけ合って作る方が、良いものができると思います。書き手としてはより多くのメッセージを伝えたいというのがあるんですが、編集の方は読み手に1番近いところでフィルターになってくれます。同じ原稿を渡しても、そのフィルターの違いというか、編集者によってかなり違う本ができると思っています。書き手と編集者という関係は、結婚のようなイメージで、本は子どものようなものなのです。
――本ごとに、読者のターゲットのようなものを考えられていますか?
鳥原隆志氏: 自分なりに本を書くためのマップがあって、年齢層であったり、ベーシックと応用だったり、能力別だったりという風に分けています。メッセージを上手く伝えるには、ストーリーをこういう風に考えた方がいいなとか、問題をこういう風にしたらいいな、若い層だったら文章じゃなくて、絵で見るような感じで、1行の文字数を少なくしたりと、せっかくお金を出して買っていただいているのだから、ほかの本と被らないように工夫をしないと読者の方に申し訳ないです。
著書一覧『 鳥原隆志 』