本の限界を超える新メディアを
――電子書籍について、どのようにお考えでしょうか?
鳥原隆志氏: 可能性はすごくあると思います。本にできることには限界があって「本を読んで自分のできていないところ、目指すものが分かったけれど、そこからどうしたらいいのかが分からない」という声をよく聞きます。本では気付きを得るというところまでしかできませんし、本を読む時間がない方も多いと思うんです。今、色々なメディアが出てきて、昔できなかったことができる時代になって、本だけではなくてMP3を車の中で聴いたりすることもできます。私自身は、電子書籍をまだ読んでいないのですが、私の本をテスト的に電子化したものを使ってみると「なるほどな」と思います。
本は書店で売っているものだと決めつけているところがありますが、実は書店よりコンビニの本が売れる時代になっていたりするのかもしれません。私は大体パソコンで見ながらゲラを校正しますが、このパソコンの中に、持ち歩けない本が入っていると考えると、すごく便利だなと思います。あとはいかに私のような紙の本派の人たちに、電子書籍の良さを伝えられるかだと思います。紙の本と一緒に電子書籍を売っていらっしゃる書店もできたりしていますが、書いている者からすると、紙の本を読まない方に読んでいただくというのは、メリットですよね。
――ご自身は、書店で本を買われることが多いですか?
鳥原隆志氏: ベストセラーとキーワードが気になりますので、書店にはよく行きます。例えば「伝え方」というキーワードが本にたくさん出てきたりすると、それが出てくる背景には何があるのかを考えます。コミュニケーションに迷われている方が多いという背景にたどりつけば、その伝え方とインバスケットが掛け合わせられないか、などと考えたりします。お客様も、どのような方が来られているのかも見ますし、たまに自分の本を立ち読みされている方がいたりして、「どこを読んでいるんだろう」などと見たりもします。書店で私の本をレジに持って行ってくださる姿を見ると、お礼を言いたくなります。新しい本が出ては、何かの本が消えてくという世界ですから、書店は我々の戦場なんです。
今の読者に伝えることで、対象は広がっていく
――本を書かれる上で、大切にされている理念のようなものはありますか?
鳥原隆志氏: 本当に単純な言葉になるかもしれませんが、お客様にいかに「ありがとう」と言っていただけるか、ということです。書いていると、つまずくこともあったり、時には半分くらい書いて捨ててしまう原稿もあります。書いているうちに伝えていることの意味が変わってきたりすることは、お金を出して買っていただくお客様に対して、申し訳ないなと私は思うんです。だから、1年前に書き上げた原稿がまだ本になってないというのもあります。書いている時は、お客様、読者からのメッセージやレビューなどが支えになりますので、何度も読み返します。スーパーだと、再び来ていただいた時にお話ができる時もありますが、書籍はどこでどのくらい販売されているのか分からないし、どのような方が買われているかということや、読んでいただいている人の姿も、著者にはなかなか分からないんです。ネットなど、そういった媒体が良いなと思うのは、読まれた方の感想が、良いものも悪いものもすぐに入ってくるところです。「こういう方に読んでいただいているんだ」ということが分かれば、ターゲットが浮かんできて次が書きやすくなったり、不便を感じてらっしゃる点や、面白くないと思われている点が分かれば、それを改善していくヒントになります。良い時代に書かせていただいていると、私は思っています。
――最後に、今後の作品についての展望をお聞かせください。
鳥原隆志氏: インバスケットという軸は決して外さず、色々な使い方を、各年代層別や用途別といった形で書いていきたいです。今私の本を買っていただいている方に、インバスケットをきちんと伝えるところから、その先へ広がっていく、そういった展望を描いています。最終的には、本を買えない方にインバスケットを伝えるために書いてみたいと思っています。一部の方に良い情報が行くというのは、平等ではないと私は思っています。元々インバスケットは、兵士が自らの存亡に関わる判断をするために生まれたツールなので、例えば日本ではなく貧困の国、戦争をしている国など、そういった生きるか死ぬかの判断をされている方に、インバスケットをお伝えできること、そこがゴールかなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 鳥原隆志 』