1冊目の本は、初めての子どものようなもの
――独立されて、色々と本を出されるわけですが、そのきっかけはどういったことでしたか?
大津広一氏: 1番最初の本『企業価値を創造する会計指標入門』を出版したのが2005年です。私には伝えたいメッセージがありましたし、1人で会社をやっていく以上は、自分のブランドでありマーケティングにもなるから、本は独立した時から書きたいと思っていました。独立した翌年くらいから、本を早く書かなきゃいけないと思い始めましたが、1冊目の時には無名だったので、企画書を作って営業しました。4社送って、2勝2敗。その2社のうちの1つがダイヤモンド社で、リスクの可能性もあったのに、無名の私に出版させてくれたダイヤモンド社には感謝しています。1冊目は書きたい思いが強かったのか、もんもんとして執筆が止まる、などということはあまりありませんでした。それだけ書きたかったんだと思います。今年3冊書くので累計で8冊になりますが、その中でも特に思い入れが強い本で、自分の子どものように感じています。それがうまくいって、3800円くらいの本が10000冊売れたので、版元も結構喜んでくれました。彼らはこの本を大事にしてくれていて「改訂版も出しましょう」と言ってくれていますので、それを来年のテーマにしようと思っています。
――最初に書店に並んだ時はいかがでしたか?
大津広一氏: ニコニコしながら、たくさんの書店を回りました。今でもたまに、どこに置いてあるかなとか、どういう置き方をされているか、特に平積みされているかどうかを見るために、書店を回ることもあります。
――書店から見えてくるものもありますか?
大津広一氏: 世の中の流れを見ることができます。置き方に関しては、書店も色々な工夫をされながら本を置かれているな、というのを感じます。私がベンチマークとしているのは丸の内の丸善です。周りには銀行が多いですし、産業の中枢的な会社も多いです。私の本はどちらかというと、経営企画や財務、会計、それから銀行員向けなので、丸の内の丸善で売れないと広がらないのです。そこでは5冊出したうちの4冊がまだ平積みになっていて、丸の内の丸善での平積み率が私のKPIだと思っています。
――出版社、編集者の役割はどんなところにあると思いますか?
大津広一氏: 私は自分でのめり込んで書きたいタイプです。だから、ペースメーカーの役割とはちょっと違うと思います。そういう意味では出版社の役割は、読者目線と、マーケティング面での支援です。でも去年書いた英語の本は、初めての試みだったので、結構苦労して、途中で挫折しそうになった。無理かなと思った時に、編集の方が叱咤激励してくれました。独立すると、厳しいことを言ってくれる人が、段々少なくなってきますから、ありがたいなと思っています。
電子書籍でなければできない試みをしたい。
――読者が、電子書籍で大津さんの本を読むということに対して、書き手の視点からのご意見をお聞かせ下さい。
大津広一氏: ダイヤモンド社から出した2冊の本は、ハードカバーで相当重いですから、電子化で持っておくというのは、1つのメリットはあると思います。価格は下がるのかもしれませんが、電子書籍にはトライしたいと思っています。今年の3冊のうちの1冊目は、私にとって英語の2冊目の本となります。2冊目は10月に出る予定の、日経の『会計力と戦略思考力』の改訂版です。そして、3冊目は電子書籍で販売します。3冊の中で1番ライトな本ですが、内容が電子書籍に合っていると思うし、広く読者層をつかめるのではないか、と思っています。ライトな電子書籍で価格を下げると、私のコンテンツももっと広がるのかなといった楽しみもあります。編集的な面で言えば、なるべくイラストなどを入れるようにしています。電子出版の版元さんは、電子書籍に関しては詳しいので、価格設定1つをとっても、彼らのノウハウに私は期待をしています。
――電子書籍ならではの新しい取り組みはされていますか?
大津広一氏: 最初は必ずクイズで始まるといったように、クイズ形式を取り入れています。例えば、ユニクロと伊勢丹としまむらの決算書を並べて、「どれがどの会社の決算書でしょうか」といったようなクイズです。なるべく問いかけながら解説していって、「正解はユニクロです」と答えを明かしていきます。2章では、今度はH&Mとウォルマートなど、比較的取っ付きやすい小売りをテーマにするなど、工夫して展開します。電子書籍だから、ブログよりはもちろん内容はありますが、紙よりは少しライトな感じでいくつもりです。
著書一覧『 大津広一 』