英語と会計で、日本人と世界の橋渡しをする。
――色々な軸で挑戦されていますが、その中で、執筆に対する思いというのはございますか?
大津広一氏: 執筆はいつもチャレンジする領域です。私は新しい価値観を伝えたいと思っています。最初の本に関しては、過去の分析だけではなくて、将来のビジョンを語る言語も会計なんだ、というコンセプトがありました。2冊目の『会計力と戦略思考力』は、インタラクティブに、会計を学ぶというコンセプト。読んでから考えるんじゃなくて、考えてから読むんだという仮説思考でいくべきだと。ビジネススクールの臨場感ある現場を伝えたかった。3冊目の経営分析の本が、1番オーソドックスな書籍かもしれませんが、12の分析指標を選んで、ケースを使って徹底解説したことで、多くの大学で教科書として採用してもらいました。4冊目のファイナンスも、小難しいと思われがちなファイナンスの領域を、縦書きの文庫本でインタラクティブに学ぼうというコンセプト。5冊目に関しては、グローバル共通言語である英語と会計を、ケース企業を使って同時に学ぼうという書籍です。
――大津さんにとって、執筆にはどういった役割があるのでしょうか?
大津広一氏: 自分の描いた思いや考えを、もっとも効果的に世の中に伝達できる大切な媒体です。加えて、頑固おやじにならないために、自分を律するものを持っていないとダメだと思っていて、それが私にとっての「本」なんです。この間、すごく実力があるけれど、ずっと組織に属している方と話している時に、「なんで独立しないんですか」といった話になりました。その人が、あえて組織で働く理由の1つとして、「独立した人のほとんどが頑固おやじになっているから」と言ったんです。私にはその言葉がすごくしっくりきた。独立して、ちょっと本が売れたり、仕事の数が増えたりすると、「自分は先生なんだ」といった感じで、多くの人が頑固おやじになると言うんです。だから私は、そうならないための仕組みの1つとして、伝えたいコンテンツのある間は、執筆を継続していこうと思います。これまでいろんな仕事をやってきましたが、やっぱり一番苦しいのは本を書く事ですから(笑)。
――今後の展望を最後にお聞きしたいのですが。
大津広一氏: 大げさなことは考えておらず、今の3本柱(コンサルティング、研修講師、書籍執筆)を大切にしたいと思っています。早稲田大学でも教えていますので、今ある仕事を粛々と育てていく、という大きなところは変わらないと思います。ただ英語に関しては、とにかく自分が好きでやってきて、たまたま今の時代では、グローバル人材というのがキーワードになっています。英語と会計というのは、グローバルなコミュニケーション言語だと私は考えていますし、親和性が強い面もあって、会計は実は英語で学んだ方が分かりやすいところもあります。ですから、私は日本人が当たり前のように英語を話す、あるいは会計を英語で語る、そういう世の中を作りたいなと思っています。先の東京五輪誘致の成功要因の1つが、最終プレゼンをすべて英語と仏語でやったのは日本だけだったこと、という記事を読みました。どんなに素晴らしい通訳をはさむより、グローバル言語で直接コミュニケーションをとる方が、思いは伝わるのだという好例だと思います。ビジネスの共通言語は英語と会計なのです。だからこそ、日本人の英語と会計というものの水準を高めるために、色々な媒体を使って今後も取り組んでいきたいと考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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