人工知能との出会い
大澤幸生氏: 「何か面白いことがないか」と思っている時に、人工知能という研究分野に出会いました。それまで私は、コンピューターのことを人工知能と呼ぶのだと思っていましたが、むしろコンピュータという機械の上で働くソフトウェアを人工知能に高める研究があるのを知って興味を持ったのです。人間のようにものを考えるアルゴリズムとか、人間のように動くロボットをどう作るかが人工知能の問題で、機械そのものだけを作るわけじゃなかった。「これは面白いんじゃないか」と思い始めたのが大学の3年生ぐらいでした。ある先生に『Human Information Processing』(Peter H. Lindsay Donald A. Norman著)という有名な本を貸していただき、あまりにも面白かったので、自分でもその本を買いました。
――それが学問との本当の出会いですね。
大澤幸生氏: それから、私は藤崎先生という方に巡り会いました。天才ですが厳しくもある先生で、1月に先生の家で行われた新年会に行って、しゃべっているうちに、2月に提出だった卒論の研究テーマがごろっと変わってしまったこともありました。卒論を書き始めた当時は、73キロだった体重が、書き終えた時には58キロにまで落ちるほど、とにかく一生懸命に頑張りました。恐ろしかった藤崎先生でさえ「たまには寝なさい」と私に言って来られました。最後に先生から「おめでとう」と言われた時はうれしくて本当に泣きました。
――藤崎先生は、なぜテーマを直前に変えられたのでしょうか?
大澤幸生氏: 恐らく先生ご自身、もともとの私のテーマなど覚えておられなかったのではないかと思います(笑)。藤崎先生の登場は本当に強烈でした。大学の3年生だったと思いますが、学期の最初の授業で「知識とは何か」という問題を出されたんです。私は「考えてみたらこれは面白いな」と思い、簡単なものを手書きで書いて、藤崎先生のところへ持っていったら「非常に面白い」と言ってくれたんです。それが私の中の1本目の論文です。後に私のドクターを取る時の指導教官になっていただいた石塚先生にも相談に行きました。石塚先生はデンプスターシェーファー理論という、確率推論みたいな既存研究について紹介してくださいました。さらに、甘利先生というニューラルネットワークで非常に有名な先生のところにも出かけて行って話を聞いてもらいましたが、「まあまあ待ちなさい。これぐらいのことを考えてる人はこの世界にいっぱいいるんだから」と言われました。そういうことも1つの大きな刺激となりました。当時は熱意やエネルギーがすごくあり「とにかく動かなきゃ」という気持ちでした。これほど考えたんだからそれを論文に書いて、人に見てもらおうという感じだったのかもしれません。
出会うことのすべてから学べ
――その当時としては、とにかく前へ進む感じですね。
大澤幸生氏: 私は数年前から、東進ハイスクールというところで、高校生たちに講演をしているんです。そういう時に「高校生たちに何か良い本を紹介してくれ」と言われた時に、必ず紹介するのは広中平祐先生の『生きること学ぶこと』という本です。「すべてのことから、とにかく学べ」という精神を伝えています。私自身も、せっかく出会ったんだから、そこから学ぼうということをいつも考えています。今もどちらかと言うと、学生に対して教えているつもりはあまりなく、彼らが教えてくれるように仕向けて、つっこむことをやっています。学生にとっても絶対その方が良いと思います。だから私は、冗談でドSだと言われることがあるんですよ、本当はドMだといくら言っても(笑)。
――先生の情熱と、原動力はどこから来ているのでしょうか。
大澤幸生氏: 食べて寝ること、それと欲望でしょうね(笑)。他にはありません。人間も生き物ですから、ものすごく単純だと思います。人間とロボットの違いは、欲望です。人間はいつか死ぬ、死んだら終わりで修理できないから欲がある。これが、いくらロボットが知性を持っても越えられない欲望の源泉だと思います。
著書一覧『 大澤幸生 』