大澤幸生

Profile

1968年、京都生まれ。東京大学工学部卒、工学系研究科博士(工学)取得。大阪大学基礎工学助手、筑波大学大学院ビジネス科学研究科助教授、東京大学大学院情報理工学研究科特任准教授などを経て現職。専門は人工知能、意思決定支援、知識工学。チャンス発見、創発システムデザインなどを研究。著書に、『未来の売れ筋発掘学』(編著、ダイヤモンド社)、『チャンス発見のデータ分析』(東京電機大学出版局)、『ビジネスチャンス発見の技術』(岩波アクティブ新書)、『イノベーションの発想技術』(日本経済新聞出版社)等がある。

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人の本当の意図というのは、スーパーコンピューターでも分析できない



大澤幸生氏: 現状のIMDJでは対面で、データの価値をお互いに確かめ合いながら会話できる仕組みを作っています。本の例で言えば、「この本とこの本を組み合わせると、こんなことが分かりますよ」なんていう会話をする場を作りながら、分析し始めたばかりです。これ自体が先ほどお話したようにデータの価値を議論する新しい方法になっているのですが、さらにこういうものを、一緒にソーシャルネットワークのような仕組みと組み合わせたりしていけば、また違った書籍マーケットの形態があり得ると思います。例えば、昔からAmazonは、本を買った人やAmazon上で閲覧した人に関連するものを適当に勧めてきました。本当にexact matchのものも勧めるけど、絶妙に離れたものを見せたりして、なかなか上手にやっている。ただあれは、書籍の表紙や概要と目次、それからその周りのせいぜいレビュアーのコメントとか、それぐらいしか見ていないから、購買者は判断の根拠を充分持っていないんです。そういう状態で他の商品を推奨しているだけなので、もっと背景のところで、その人がどんな意図を持って、何がしたくてその本を探しているかとか、そういうディープなことがあの仕組みには入らないといけないと私は思います。

――意図までくみ取る、ということでしょうか?


大澤幸生氏: はい、コミュニケーションが起こって深い意図まで自然な形でやり合うことができればいい。著者は、自分の書いた本のことが気になって気になってしょうがない。私はいまだに、自分の本がAmazonで何位になっているかとか、誰かコメントを入れてないかな、などと気になって時々見たりします。もしあの場で読者が私に対して質問を投げたとすると、多分私は答えると思います。そこではコミュニケーションが十分に発生しうる場なので、それをやらないと、書き手も自分の書いた本のマーケットにおけるポジショニングがしたいのにできないでしょう。このマーケットっていうのは、必ずしも本を売り買いするお店っていうことだけじゃなくて、ナレッジのマーケットで、誰がどんな知識を欲しがっていて、その背景にどんな欲望があるか、ということを知らせ合う場です。そういうことができるようになると、本のマーケットは意味が変わってくると思います。

――本の電子化に対しては、どのようにお考えでしょうか?


大澤幸生氏: 書いた方の気持ちとしては、裁断するのは本がかわいそうかなと思ったりします。本の持ち主が頼んで電子化したのを本人に返すだけだったらいいとは思います。最近裁判がありましたが、裁断は恐らく罪ではないだろうと思います。ただ、その前後の段階で、色々な人が気分的に違和感を感じていて、その違和感が裁判へとつながったのではないかという気もします。あと、電子データがどう扱われているのかは本当に分からない。電子化にはそういう怖さがあります。先ほど私が言っていたIMDJは、逆にその怖さを転用する方法だとも言えるでしょう。データには自由度があるので、著者などが隠したいなら隠す。そういった隠す自由度も認め、もちろん信頼関係もあった上で、露出度の調整ができるというメリットを生かしていくことは、とても良いことだと私は思います。世界がそうなっていった時に、日本だけが「それはダメ」という風に言ってしまった時に、世界から取り残されることは明らかです。

――ジャーナルなどは早めに電子化されていると思いますが、そういう可能性はどうお考えでしょうか?


大澤幸生氏: 昔は、論文なども、学生が使う場合にも図書館で論文を検索して、お金を払って印刷していました。もっと昔は、コンピューターでの検索などもなく、本は図書館へ行ってタグのついた引き出しを開けて探していましたので、今と全然違いました。「当時の私よりずっと論文を読んでないね。なんで?」と時々学生に聞くことがあります。今は、簡単に手に入るものは手に入れようとしない性質というのがとても多く見られます。電子化のメリットを享受する一方、紙の論文図書館で求める行為も大切です。図書館で紙の論文を探して読んでいると、同時に他の論文も目に入りますので、これも紙の本の良さだと思います。

――ある意味、検索エンジンの能力を超えたものを提示してくれるわけですね。


大澤幸生氏: 本屋さんもこの意味では図書館と同じです。表紙を見るだけでも、その本の雰囲気がなんとなく分かります。そして意外なものに出会うことがあります。だから、情報の空間を作って、そこに人を置く。そうしたらどんなことをするかを観察する。空間を作っている人は、そういう意図があって作って良いと思います。人間はそんなに意図通りに動かないけれども、意外な動きをした時に、それがまた実はその空間のおかげだったということになるかも知れません。人の1つの歩き方っていうのは、色々な尺度で見ることができるのではないでしょうか。

――お話を聞いていると、これほど複雑で面白い学問はないのではないかと思います。


大澤幸生氏: 社会を、近似できる部分について近似的に予測やシミュレーションをすることはできるんだけども、むしろそれよりも、個人の意図の理解やシミュレーションを、本質的なところを落とさずに捉えてやろうとする方が難しく面白いと思います。意図を生み出す個性っていうものは、すごいものです。ベイジアンモデルのような方法である程度個性を捉えることはできますが、そこで網羅できない残りの部分に、人間の面白さがあるように思います。

著書一覧『 大澤幸生

この著者のタグ: 『大学教授』 『原動力』 『研究』 『人工知能』 『データ』

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