小野善康

Profile

1951年、東京都生まれ。東京工業大学工学部社会工学科卒、東京大学大学院経済学研究科修了。経済学博士。マクロ動学、国際経済学、産業組織を専門とする。内閣府の経済社会総合研究所長を歴任。菅直人元首相の経済政策のブレーンを務めた。 著書に『エネルギー転換の経済効果』『成熟社会の経済学 長期不況をどう克服するか』(岩波書店)、『不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ』(中公新書)等。 共著・編著には『金融緩和の罠』(集英社)、『不況の経済理論』(岩波書店)等がある。 新聞・雑誌等にも多く寄稿している。

Book Information

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自分が書きたいと思うことが大事


――理想の編集者とは?


小野善康氏: 難しいかもしれませんが、自分が書きたいということが漠然とある時に、「これを書いてください」と具体的に言ってくれる人です。しかも「こういうところに興味があるよ」ということを読者の目線から言ってくれるとうれしいですね。本を読んでコメントしてくれる仲間役を、アイデアを作る段階でやってくれる。頭の中にあるものを形作って、引き出してくれる存在とでも言いましょうか。好きなことを書いてくださいというのは、まだいいんです。でも、世間的な人気に当てはめて、「こういうのを書いたらいかがでしょう」と提案されると、全く自分には興味のないテーマということもあります。それだと書くのはやはり難しいです。いかに、書きたいという気持ちと、それを読みたいという人をうまくつなげるか。社会と書き手を引き合わせる仲人のような存在でしょうか(笑)。でも、「短所は隠して、相手の望むように表現しないと」などという仲人はイヤです。そういうのは、結局は悪い結果をもたらすと思います。だから提案された時に、自分が書きたいと思えるものを選ぶことが大切。

――ネットの存在で、読者との距離は近くなったと感じますか?


小野善康氏: 本は、自分の好きなことを「これは面白いから、聞いてくれよ」という思いで書いています。だから、1人でも「すごく面白かった」という人がいると、書いて良かったと思います。今はネットの時代ですから、Amazonの評価やブログ、Twitterなどで反応がダイレクトに返ってくる。褒めてもらえることもあるし、批判や中傷もすごい。批判や疑問もそれを糧にして、“それに答えなきゃいけない”と書いた本が『成熟社会の経済学』なんです。

理論的に、自信を持って伝えたい


――今後の展望をお聞かせください。


小野善康氏: 僕のフィールドは学術論文を書くことで、やりたいと思うことは色々とあります。一般書は、国際金融について書きたいと思っています。僕のオリジナルの部分が表に出すぎないようにして、読者や周囲の人たちが「分かりやすくて面白いね」と言ってくれたら大成功。それからもう1つ。僕は政治などに全然興味がなかったのですが、突然、総理大臣から呼ばれて2010年から12年まで政策の現場に入った。政治家や官僚とのつき合い方も全然分かっておらず、まったく専門外の会議や単なる儀礼にも呼ばれて「なんで僕が出なきゃいけないの」と文句を言って頭を抱えられたこともあります。まさに『不思議の国のアリス』のアリス同然だったので、“入ってみたらこんなところだった”という体験記を書きたいなと思っています。特に東日本大震災の恐ろしさを間近で聞いていたので、それについて書きたい。そう思っていたら、今は立派な研究者になっている僕の元学生たちに「そんな暇があったら論文を書きましょうよ」と怒られてしまいました(笑)。



――小野先生の使命とは?


小野善康氏: 理論的にきちんと答えが出たことだけを言うこと。それによって実際に社会が良くなるなら、たとえ政治的に受けなくても、それが「いい」と自信を持って言うこと。偉い人の中には、自分の専門でもないのに、平気で意見を述べる人もたくさんいます。心臓外科の先生が鼻や目、あるいは風邪の話もする。偉い先生に耳障りの良いことを言われると、なるほどと思うのかもしれませんが、実は素人です。僕はそんなことはやりたくないし、意見を述べるなら、絶対の自信を持って言いたい。逆にそうじゃないことは言わないか、「素人だけど」と正直に言うこと。そこが自分の使命というか、そういう風にありたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 小野善康

この著者のタグ: 『大学教授』 『経済』 『研究』 『理系』

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