落合孝裕

Profile

1961年、東京都生まれ。横浜市立大学卒業。大手食品会社退職後、会計事務所で働きながら2年9ヵ月で税理士試験に合格。96年独立し落合会計事務所を開設。資産家向けの相続税などの資産税、中小企業向けの会計・税務を専門としている。セミナー講師としても、年10~20回程度の講演をこなす。テレビ出演やマスコミ掲載も多数。 著書に『決算書の読み方が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)、『相続と節税のキモが2時間でわかる本』(日本実業出版社)、『ポイント早わかり 減る税金 増える税金』『社長! こんな会社が倒産します』(中経出版)など。

Book Information

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目の前のことをしっかり頑張ることが大切



横浜市立大学卒業後、大手食品会社に入社。26歳の時に退社され、翌年より税理士事務所に勤務しながら、中小企業の決算、税務の実践を徹底的に学ばれて、相続税など専門的な知識を広げ、1996年落合会計事務所を開業されました。『社長!こんな会社が倒産します』、『相続と節税のキモが2時間でわかる本』など、斬新な切り口の専門書を多数執筆されています。また、テレビ出演も数回あり、セミナー講師としても年に数十回講演を行っている落合さんに、今の道に至った経緯、執筆活動や、電子書籍などについてお聞きしました。

中学時代は、星新一さんの本に夢中に


――お仕事のご紹介と近況をお聞かせ下さい。


落合孝裕氏: 100件ほどの法人のお客様と、150名ほどの個人のお客様の顧問をやっています。スタッフの作成した財務諸表、申告書のチェックや、お客様の税務相談、さらに、セミナー講師や執筆活動などもその都度おこなっています。会計事務所の仕事自体は他の事務所と大体同じようなやり方でやっています。中小企業の経営者の方は、周囲に相談する相手がなかなかいなかったり、あるいは税金のことなどのように、社内ではなかなか話しづらいこともあったりしますので、我々がお話を聞いたり、色々なことを提案したり、情報提供したりしています。

――現在に至るまでを幼少時代からさかのぼりお聞きかせください。ご自身で振り返ってみて、どのようなお子さんでしたか。


落合孝裕氏: 普通でした(笑)。おとなしい性格だったこともあり、あまりこれといった特徴はない幼年時代でした。勉強は比較的できていました。自慢話になってしまいますが、塾には通っていませんでしたが、学校の成績はいつも良かったですね。なので、両親から勉強のことで口うるさく言われる、ということもありませんでした。

――ご両親は税理士、もしくは商売をされている方だったのでしょうか?


落合孝裕氏: 両親は小さな洋品店をやっていました。そういった方面にも興味はありましたが、親は子どもに継がせることはあまり考えていなかったと思います。昔の職人気質の人なんでしょうが、自分の仕事は自分でやりたいと、手伝われるのを嫌がるようなタイプの人でした。中途半端に手伝われるのが嫌だったのかなと思います。でも年末など忙しい時は、タオルの箱詰めなどの手伝いをしていました。手伝いはその程度で、店員としてお客様と対話するというようなことはありませんでした。

――本や漫画はよく読まれていましたか?


落合孝裕氏: 中学ぐらいの時は、星新一さんの本をよく読んでいました。誰かにおすすめされて読み始めたのは覚えています。SFのショート・ショートで、非常に面白かったです。よく図書館で借りたり、自分で買ったりして読んでいましたね。

周りの環境が幸せだった大学時代


――その後横浜市立の大学に入られるわけですが、なぜそちらに行こうと思われたのですか?


落合孝裕氏: 割と地味な性格なので、私立の派手なところは自分に合わないかなと思いました。ちょっと落ち着いた雰囲気のところが良いかなと思って、決めました。学部は文理学部文科の国際関係課程(当時)でした。人数が少ない学校で、雰囲気は高校のようなところでした。ゼミでは、核軍縮問題や南北問題などを勉強していました。

――大学時代はどのように過ごされていましたか?


落合孝裕氏: あまり上手くなりませんでしたが、卓球部に所属してよく練習をしていました。その当時、麻雀が流行っていたので、麻雀をしたりとか、酒を飲みに行ったりとか、学生時代を謳歌していました。この時期、正直勉強はあまりしていませんでした(笑)。

――その後、大手食品会社の日本ハムに就職されたそうですが、あまり勉強をせずに入社できるとは思えません。


落合孝裕氏: 我々の時代の就職は、今とは全く違いました。GDPの動きを見ると、平成9年ぐらいまでぐーっと上がっていて、それ以降は殆ど横ばいになっています。「もうまったく違う国ですよ」と社員によく話しているんです。日本が平成9年を境にまったく違う国になってしまったのです。経営者の方は、「頑張れば何とかなる」と、経済が伸びていた時代を前提に話をする方が多いのです。確かに当時は頑張ったので何とかなったのですが、それは人口が増え日本の経済全体が伸びていたからなんです。今は、隙間を上手く捉えるとか、ネットを上手く使うなど、工夫をしないと売り上げが伸びない時代なんです。

――ご自身の大学卒業の頃は、周りの環境も経済的に幸せだったのですね。


落合孝裕氏: 人口も増えて経済も発展していましたから、普通に頑張れば、10年ぐらい経つと会社の規模も倍ぐらいになるし、所得も倍になるような時代でした。だから給料も、頑張れば頑張るほど貰えました。放漫経営や、いい加減に生きてない限りはなんとかなっていた時代なんです。就職もそういった感じで、謙遜しているわけではなく、本当に殆ど何もしなくても就職できたんです。試験の勉強は多少やりましたが、大学時代を今となって振り返れば、もう少し違うことに時間を割いていれば良かったなと思うぐらいに怠惰な生活でしたね(笑)。就職活動をしたのも実は、4年の夏休み。名の知れたところを回り、2社ぐらいから内定を貰えました。そういう時代でした。
でも、私立の大学とは随分違うというのもあります。今は国公立大学も一生懸命やっていると思いますが、当時は就職説明課に説明する人が1人いるだけでした。何か学生が質問すると、「それも良いんじゃない?」というような答えしか返ってこないし、「食品会社を目指しているんです」と言ったら「まぁそれも安定していて良いんじゃないですか」などと通り一遍の答えだけが返ってくる(笑)。そういったレベルなので、もう自分で探すしかありませんでした。今のキャリアセンターのようなものは当時はなかったんです。

情報が多いということは、必ずしも良いとは言えない


――食品関係の仕事を選ばれたきっかけはなんだったのでしょうか。


落合孝裕氏: 生活の身近にあるし、「安定しているかな」と、その程度でした。新入社員として入社した時は、あまり僕自身が世慣れしておらず、仕事に対する心構えもまったく無かったので、仕事のスピードに付いていけず、正直「大変だな」と思いました。「こんなところでずっとやっていけるのかな」とも思いましたね。
我々の時代は、大卒の人間が辞めることはそんなになかったので、大変だと感じていても、なんとなく続けていました。また、組織の中で働いているということは、辞めるのには勇気やエネルギーが要りますから、どうしようかなと思いながらも仕事を続けていました。そうこうして続けているうちに、だんだんと仕事に慣れてきて、次第に色々な仕事ができるようになっていったという感じです(笑)。
今は、ネットで物凄い量の情報が氾濫しています。例えば、ネットで就職したい企業について聞くと、ポジティブな意見もネガティブな意見もある。それから「ここはこんな短所があるからやめた方がいいよ」みたいに、割と無責任に言ったりする人もいる。現代の大学生は、そういう情報で気持ちがぶれちゃうんじゃないかな。そういう意味では、情報がたくさんあって、それが良いことかどうかというと、難しいですね。

顧問先ゼロから始めた、税理士の仕事


――税理士を目指すきっかけはなんだったのでしょうか。


落合孝裕氏: とにかく、仕事が体力的にきつ過ぎたことですね。仕事を始めた当初はハードで体がきついなと思っていましたが、しばらくして仕事に慣れてきました。それでも4年半も続けているとやっぱり体がしんどくなり、ずっと続けていくには厳しいなあと思うようになりました。営業所の所長に相談すると「他の部署もあるよ」と言われたのですが、結局辞めることになりました。

――なぜ税理士の道に進むことになったんですか?


落合孝裕氏: 簿記の勉強は会社を辞める前に少しやっていたので、その延長で出来る仕事が良いかなと思いました。あとは資格を取るんだったら、何か一生使えるようなものが良いんじゃないかと考えた結果、税理士と公認会計士と弁護士が候補に上りました。当時は弁護士も会計士もかなり難しかったので、その中で自分が取る可能性があるのは、税理士だと思いました。合格体験記をよく見ていたのですが、家庭の主婦の人や年輩の人が受かっている資格だったので、自分でも受からないことはないかなと思いました。科目ごとに受かっていけばいいし、大切なのは何がなんでもなるんだという気持ちです。
大学の時に卓球部を辞めて、「勉強に専念する」と言って、最終的に簿記の2級を大学時代に取った仲間がいて、凄いと思いました。でも独立後、実際に自分で勉強してみたら、たった3週間で簿記2級に合格しました。要は、必死さの問題かなと思います。食品会社で厳しい仕事をなんとかやってきて、辞めた後は毎日10時間は勉強していました。そしてその後も9カ月間税理士勉強に専念しました。とにかく必死に勉強をやり続けました。

――その後、合格して税理士として開業されましたが、順風満帆だったのでしょうか?


落合孝裕氏: 結婚した年に独立して、最初はお客さんがゼロから始めたので、月の売り上げは1、2万円ほどでした。
税理士会というのは親切なところで、所属している東京税理士会玉川支部に依頼がある区役所や税務署とか商工会議所などの税務相談官などの仕事を僕になるべく優先的に回してくれました。独立したのは17年前ですが、17年前に、お客さんゼロから始めた人っていうのは玉川支部でまずいなかったようで、ほとんどの場合は、以前勤務していた事務所から引き継いでいで、独立当初から10件から15件ほどはあったようなんです。

――どうしてゼロからやっていこうと考えたのですか?


落合孝裕氏: 成り行きです(笑)。以前働いていた2つ目の事務所は、相続対策などの事務所だったので、それが魅力で入りました。ですが、バブルが弾けてから、だんだんとそういった仕事が無くなり、「税のことは、これからあんまりやってもそんなに先行きが無いよ。人事のコンサルをやるとか、申告業務よりもコンサル業務を中心にやっていった方が良いよ」というような話を所長がしたんです。「税金のことで仕事をしたかったのに、今さら人事コンサルと言われても・・・」という気持ちでした。畑が違いますし、コンサル的なものにはセンスが必要なので難しくて、そういうのはなかなか自分には向いてないなと思いました。税の方は割と形ができていますが、コンサルというのは形の無いところをやっていかなきゃいけないイメージなので、「そういうのは自分には向いていませんので、事務所を辞めます」ということを話しました。それで成り行き上、独立しちゃったという感じです。

食品会社での仕事が良い経験に


――独立した当初は、どんなお気持ちでしたか?


落合孝裕氏: 実際にやってみると、あまり焦りはありませんでした。というのは、我々の仕事は、大きな設備投資をする必要がなく借入金なしで、自宅でできますし、コストがあまり掛からないんです。貯金は少しずつ減っていく毎日でしたが、割りと楽観的に、「なんとかなるんじゃないかな」と思っていました。

――独立してから今の道に至るまでには、どのような努力をされていましたか?


落合孝裕氏: まず、日々の仕事を順に片付けていくことです。それから1つ大きいのは、日本ハムでの営業経験です。1日20件から30件ほどのお客さん周りをし、納品をして、返品をして伝票を書いて、特売の商談もしてというようなことをほぼ1日ほとんど休まずにやっていたので、スピード感が凄く出てきたんです。それから税理士の仕事を始めて、最初の事務所で、「落合君、昼は休んでいいんだよ」と言われたのがカルチャーショックでした(笑)。当時の所長から「30年経営している中で落合君が一番仕事が早かった」と言われました。日本ハム時代は「仕事が遅い」と毎日怒られているくらいでした(笑)。そんな中でずっと鍛えられ、厳しさの中をなんとか乗り越えて来ましたから、その努力が役に立ったのだと思います。
どんな仕事でも将来にどう繋がるか分かりません。若いときには、目の前のことをしっかり頑張るというのは、当たり前だけど、とても大事なことだと思います。

――これまでに様々な本を書かれていますが、本を書くきっかけはなんだったのでしょうか?


落合孝裕氏: 独立してまったく仕事がないこともあり、本を書けばなんとかなるんじゃないかと思ったんです。根拠はありませんでしたが(笑)。2カ所目の会計事務所では、お客さん向けにニュースレターの制作責任者でした。その事務所で30歳になってから初めて文章を書くようになり、そこで随分経験を積みました。やっているうちに面白くなり、段々工夫をし始めました。最初は、税制がこう変わりました、というありきたりのものだったのですが、そのうち、芸能人の税金ネタを書き始め、宮沢りえさんが本を出したらどういう印税になるのかとか、ダウンタウンがこれくらい儲かっているとか、そういうものを話題にしつつ、内容は真面目なことを書いていたので、周りから「面白いね」と言われることが多かったんです。そして実際に本を出すために、企画書を送りました。

――その企画書のお返事は来ましたか?


落合孝裕氏: 残念ながら良い返事は1社を除いてまったく来ませんでした。ちょうど消費税が3%から5%に上がる時代だったので、5%に上がってこうなりますよというような、消費税の話で出そうと思って企画書を提出しました。家にあったビジネス書をかたっぱしから引っ張り出して、その奥付の住所10社くらいに出しましたが、殆ど返ってこず、1社からはお断りの返事が、もう1社からは1回会いますよという返事が来ました。そこが中経出版というところで、そのお話のあと仕事の依頼があったのが初めてです。昔は『近代中小企業』という月刊誌があって、必ず別冊付録があったんです。「落合さん、1回その仕事をやってみない?」と言われたんです。
その後、編集長から共著のお話があり、最初の本を出すことになりました。

――執筆に関して、何か気をつけていることはありますか?


落合孝裕氏: 僕は、文章のことを勉強したことがあるわけではないので、まったくの「自己流」です。回数を重ねるにつれて、文章は短い方が良いとか、回りくどく反復して要点を書くと分かりやすいんだなとか、そういうことにだんだんと気が付いていきました。あんまりさらっと書き過ぎてしまうと、話はそれで終わってしまい、読んでいる方からすると何が書いてあったのか分からないんです。だから、難しいところは切り口を変えてもう1度書いたりとか、事例を入れるとか、数字を入れるとか。そうやって表現を工夫しながら同じことを何回か繰り返していると割と分かりやすいんじゃないかなと思っています。

――落合さんにとって編集者というのはどういう存在ですか。


落合孝裕氏: 凄い人もいれば、割と丸投げみたいになっちゃう感じの人もいます。正直に言うと、人によってレベルの違いがかなりあります。「この人大丈夫かな」と思う人もたまにいます(笑)。良い編集者というのは、丸投げではなくて、一緒に「ここダメですよ」とか、「ここをこういう風にしてください」という、ちゃんとしたやり取りがあります。更にそこを「ここの並びはおかしい」などとチェックしてくださる方はいいですよね。それから僕は、税の専門家ですが他のことはよく分からないので、例えば社会保険などのことについて調べてくれるとか、そういうことをやってくれる方は良いですよね。

face to faceの対話を大切に


――普段はどのような本を読まれているのですか?


落合孝裕氏: 小説などはあまり読まず、ビジネス書が多いです。ここ10年くらいで読んだ本のなかでは、この神田昌典さんの本(「あなたの会社が90日で儲かる!」)が、文章の書き方なども全部含めて猛烈に面白かったです。こういった本を読むときは、前書きなども参考にしています。読み方としては、気になった箇所に線を引いたり、余白に書き込んだりします。なんとなくこの方法が頭にこびりつくのかなといった感じです。
本選びに関しては、新聞の広告欄をみて面白そうなものを買ったりもしますね。またAmazonの書評を見てみたりするなど、何かしらのフィルターを掛けて、それから買うようにしています。

――紙の本と比べて、電子書籍についてはどうお考えですか?


落合孝裕氏: 今後は読み方の区分けをしていくような感じでしょう。本は、手に取らないと分からないというのと、本棚に並んでいるという所にメリットがあると思うんです。本屋さんに行って大量の背表紙を一度に見た時に、これはこんな題名が書いてあったとか、どんな本の並びなのかなどという情報があり、何百冊と読んでいると、これとこれは歴史が繋がっているなとか、その関連性まで何となく分かってきます。背表紙って結構大切だと思っていて、タイトルだけではなく、大きさや色なども含めて、情報だと思うんです。電子書籍でも、タイトルや表紙も見られるんでしょうけど、やっぱりちょっと違いますよね。
僕は今のところ、過去に読んでもう殆ど読まないようなものは電子書籍にするなど、補助的な役割で電子書籍を利用してしようと考えています。電子書籍は、資料を読むという意味では良いと思うのですが、まだ本の質感などが無いので、電子だけを利用するつもりはありませんね。

――電子書籍の可能性について、どう思われますか?


落合孝裕氏: 検索する時などは、結構良いと思うんです。図表をクリックするとそのデータが見られたりとか、それを自分で加工できたりとか、そこまでできると面白いですよね。今の段階だと、ほとんどが単にスキャンしたデータを見るというものだけなので、もっと電子書籍ならではの仕組みがあれば良いと思います。例えば、ビジネス書だったらURLをクリックするとそこに飛ぶとか、データの更新ができるとか、「過去3年のデータはこれ」などと、毎年改訂されて、1年毎にデータを比較できるといったように、電子書籍にしかできない何かがあると面白いですよね。

――今後の活動などに対する意気込みをお聞かせください。


落合孝裕氏: 今、毎週火曜日にメールマガジンを出しているのですが、それに力を入れています(「落合会計事務所」のホームページから登録が可能)。雑誌の記事などは、読者とのやり取りがなかなか無かったのですが、メールマガジンは感想が届いたり、直接仕事に結びついたりします。感想を寄せてくださることはまだ少ないのですが、実際に会うと、「このあいだの面白かったよ」とか、「参考になりました」とか、「実は毎週送ってもらったものを打ち出して取って置いてファイルしています」といった、face to faceの対話ができるので、暫くは執筆活動はメールマガジンを中心にやっていこうかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 落合孝裕

この著者のタグ: 『チャレンジ』 『働き方』 『可能性』 『税理士』 『独立』

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