プロダクトとしての本の魅力
――「本」を作ることにおいて、重要なことはなんでしょうか。
五百田達成氏: プロダクト・商品としての本の完成度、紙の質やデザインといった細部へのこだわりは大事なんじゃないでしょうか。「かわいい」本というか、ぐっとくるモノというか。ブランドや付加価値という言い方をする人もいるかもしれませんが、わざわざ、かさばる重たいコンテンツの入れ物を買ってもらうには、そこに価値ある何かが必要。特に今僕が書いているような実用書においては、著者のパーソナリティや、アレンジやデザインなど、ウェブコンテンツとの差をいつも考えています。
――「本ならではの価値」ということですね。
五百田達成氏: 情報が容易にインターネットで手に入る時代です。いち読者として自分も、そういった「本ならではの価値」が感じられるかどうかが、購入する基準になっています。僕は乱読家ではなく、特定の大好きな作家の作品や、あるいは仕事で必要なものなど、選んで購入しているので、読む本の範囲は狭いかもしれません。
――五百田さんご自身は、どのような本を読まれるのでしょうか。
五百田達成氏: 新刊が出たら迷わず買うと決めているのは、村上春樹、長嶋有、菊池成孔などです。マンガでいうと、よしながふみや益田ミリ。『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ)も毎巻、胸を熱くしています。興味の範囲が狭くならないよう意識的に、気の合う読書家の友人や仲のよい編集者さんと本の貸し借りをしています。中学生みたいですよね(笑)
――電子書籍で読むことはありますか。
五百田達成氏: 僕は電子書籍を買ったことがないし、読んだこともないんです。スマホを使い始めたのもこの1年ぐらいなので、慣れていないというのもあるかもしれません。でも「良さそうだな」とは思うし、電子書籍のアプリで、背表紙が本棚に並ぶといったものがありましたよね。おそらくあの“並んでるぜ”感が本好きにはうけると思います。今のところは、まだ電子書籍に対して先ほどお話したような、愛着が感じられないのが原因かもしれません。
本を買うという行為に、ワクワク感がある。電子書籍はどうか
――ひとくちに本と言っても、買う人によって様々な背景、将来がありそうですね。
五百田達成氏: 「モノ=プロダクト」ですから、「読む」だけでなく、「デザインがクール」「賢くなれそうな気がする」「流行りをおさえたい」「とにかく手元に置きたい」など、買う動機はさまざまですよね。僕も、このあいだ長嶋有の新刊が出ていないのかなと思っていたら、その日が新刊の発売だったので、書店によって買ってきました。こういう風に、まだ読んでいない段階でも、本を買う事自体のワクワク感があります。伊坂幸太郎の『モダンタイムス』という小説は近未来の設定なのですが、その中で「あの本は、最近紙で出ているぐらい人気があるらしい」という描写があるんです。これから「すべての紙の本は愛蔵版」という要素が強くなっていくんじゃないでしょうか。それぐらい、細部の作り込みが大事というか。
――電子書籍が普及することによる、編集者、出版社、あるいは書店の役割の変化についてはどうお考えでしょうか。
五百田達成氏: もちろん役割は無くなるものではないと思います。書店の役割で言うと、最近お会いした出版部長の方が、「郊外の書店は、高齢者の社交の場になっている。おばあちゃんが書店員さんに『この作家さんがすごく好きでね』といった世間話をして帰っていく」とおっしゃっていました。ある年齢層以上の人にとって、本はすごく神聖で輝きがある。宮崎県に住んでいる僕の叔母は、「私たちの世代にとっては、本は最高の娯楽なんだ」と言っていました。「近くに読みたい本が揃っている本屋がない」と言っていて、また、高齢でAmazonを利用して本を買うということもできないので、一度本を送ったら大変喜んでくれました。最近は、そういった「本」に愛着を感じる上の世代も意識して作品を作るようにしています。