多分野の勉強は、真実をより明確にする
――41歳からもずっと学問を続けられているということですが、なぜなのでしょうか?
宮崎伸治氏: 先ほど少し申し上げましたが、イマヌエル・カントが言っているように、自分を高めていくのは人間の義務だと思っているのです。その方法の1つとして「学問」があるのです。考えることによって真実がより明確に見えるようになるのです。真実が見えないところで、自分の思い込みだけで色々考えるのは、目が見えない人が道を歩いているようなもので非常に危ないのです。
例えば、環境問題を論じる時にどうするのか。文学を勉強した人は文学的な観点から、倫理学を勉強した人は倫理学的な観点から、経済学を勉強した人は経済学的な観点から環境問題を見ることができます。同じ一つの問題を見るのであっても、それぞれが全く違う視点から見ることになります。1つの学問で1つだけの視点で見ていると、全体としての真実が見えてこないこともあります。つまり、真実のうちの一面しか見えていないのです。ですから、色々な学問をやることによって色々な側面から真実を見ることができるから、よりはっきりと真実の姿が見えるようになるのです。たとえ1つだけの分野で頂点を極めても、1つの側面の真実しか見えていないのです。
――そういったお考えから、多分野にわたって学問をされているのですね。
宮崎伸治氏: 学問もしくは読書をしない人というのは視点が磨かれないでしょうね。そういった人たちは物事をどこで判断しているかというと理性ではなく自分の欲望で判断していることが多いと思います。つまり自分にとってどうなることが都合がいいかという点から判断しているわけです。例えば消費税増税に関しては、「自分の負担が増えるのが嫌だから」、「自分にとって都合が悪いから反対」などという視点で見てしまうわけですね。しかし、真実が見えない人間同士というのは、欲望と欲望でぶつかってトラブルになりやすい。真実が見えている人間同士、がお互い理性的に考えればトラブルも少なくなりますし、それだけお互いが幸せになれると思います。私が色々な分野の学問をやるのは、真実に一歩でも近づきたいという気持ちがあるからです。真理の追究は、色々な分野で、一生やり続けたいとと思っています。
ボキャブラリーを磨くことで、新しい視野が入ってくる
――どのような思いでお仕事に取り組まれていますか?
宮崎伸治氏: 日本人は1億ちょっとで、英語圏は17億人ぐらい。ロンドン大学の哲学部で勉強しているとき、認識論という分野がありましたが、日本語の認識論の本を探そうと思ってもほとんどありませんでした。しかし、英語で書かれた認識論の本はたくさんありました。英語が読めれば、それらが読めるわけです。出版社が出版する翻訳書というのは、良い本だからというよりは、売れそうな本だという理由で出版されたものが多いです。だから、素晴らしい本でも日本語に訳されてないものがたくさんあります。もちろん日本語の本を読むだけでもいいとは思いますが、英語ができればその30倍、50倍、あるいは100倍ぐらいの本の中から自分が読みたい本を探せるので、選択の幅が広がるわけです。今はYouTubeなどでアメリカやイギリスの番組を色々なところから見られますので、ぜひ英語あるいは外国語に強くなってほしいなと思っています。外国の素晴らしい思想や素晴らしいところを吸収できる人を、少しでも増やしたいなと思っています。
英語が読めれば、海外の素晴らしい本を読むことができ、今まで日本人が持っていなかった視点も持てるわけです。成毛眞さんは「日本人の9割に英語はいらない」とか「英語ができてもバカはバカ」、「頭の悪い人ほど英語を勉強する」、「自分の経験から、英語を勉強するのは無意味だ」ということを書いています。私も日本人の9割は英語はいらないとは思っていますが、言いたいことはこの人とは少し異なっています。ですから、将来、時期がきましたら、私は私の視点から、英語の必要性について書きたいと思っています。
――英語を学ぶことで、新しい視点を持つことができるのですね。
宮崎伸治氏: 英語に関心を持っている1割の人に関しては、英語をしっかり勉強して、外国の素晴らしい文化、素晴らしい思想というのを取り入れるといったような、そういう視点を持つということが大切。そういう視点を持っておけば、何かあった時に「従来の日本人はこういう考え方だったけど、こういう視点もあるんだよ」ということが意見としても言えますよね。バランスのとれた見方をするには色々な視点を持った方がいいと思います。
――今後の展望についてお聞かせ下さい。
宮崎伸治氏: ボキャブラリーコンテストを大きな大会にしたいというのが、私の夢です。外国語の力を付けたい、英語の力を付けたいという時に、日本人にとって大切なのは、「話すこと」ではなく、「読むこと」、そして「聞ける」ということなのです。そして、読める、聞けるようになるにはボキャブラリーが必要だということで、ボキャブラリーコンテストを始めました。こういう目標がなければ、人間はなかなか勉強をしないのではないでしょうか。私も英検やTOEICなどの英語検定が存在しなかったら、何を目標にしてやっていいか分からなかったと思います。「翻訳家になりたい」というただその夢のためではなく、英検やTOEICなどの達成目標が刺激となって、初めて頑張ろうという気持ちになりますよね。学校英語やビジネス英語に留まらずに、英検にも出てこないような単語でも知っておいた方がいいイディオムなどがありますから、そういったトータル的なボキャブラリーのコンテストを作りました。今は参加費なども無く全部無料で、私が自費で出しています。「このコンテストでの優勝を目指そう」という人が出てくれば、それがまた周囲へのいい刺激となって、さらに英語を勉強する人が増えるし、ボキャブラリーを磨く人も増えます。そうやってボキャブラリーを磨けば英語の本が読めるようになる。読めるようになったら新しい視点も入ってきやすくなるということへと繋がっていくのです。
3年後、5年後には3000人、5000人という人を集めて、全国大会のようなものを開ければいいなと思っていますし、「ボキャブラリー検定」というのも今考えているところです。
(聞き手:沖中幸太郎)
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