井上順孝

Profile

1948年、鹿児島県生まれ。東京大学文学部卒業、同大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学文学部助手等を経て、現職。専門は宗教社会学。大学講師などを務めるかたわら、近代の宗教運動の比較研究などに携わる。 著書に『21世紀の宗教研究』(平凡社)、『90分でわかる!ビジネスマンのための「世界の宗教」超入門』(東洋経済新報社)、『神道入門』(平凡社)、『フシギなくらい見えてくる!本当にわかる宗教学』(日本実業出版社)など多数。

Book Information

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宗教文化に対する意識を変えたい


――情熱を傾けたものが本にまとめられることで、我々も読むことが出来ます。


井上順孝氏: 研究者には、業績というか、「自分はこの研究をしています」というアピールをしないと認められないという部分があるので、そういったことにエネルギーを注いだ時もありました。そういう面は今でもありますが、ある時期から、「自分の研究の中で何が1番伝えたいことなのか」と考えるようになりました。

日本の多くの人は、宗教に対してかなり偏った見方というか、あまり知らないのに敬遠していて、食わず嫌いに近いようなものを持っているのです。それを少し変える必要があります。もう少し宗教をフラットに見て、それを基盤に色々な議論ができるようになればいいなと、ある時期から概論書も書くようになりました。宗教の本には、すごく固くて専門家以外分からないという専門書もある一方で、「仏教はいい」「キリスト教はいい」「スピリチュアルはいい」といったように、特定の立場からのプロパガンダに近いような本も結構あるわけです。

一般書にも、きちんと距離感を保った上で、読んだ人が「なるほど」と思うような見方もやっぱり必要だと私は思っています。宗教界の内部のこともそこそこ分かっているし、外部の人がどう見ているのかも色々な調査から分かっている。その上で、「研究者がどの程度の情報を提供するのがいいのかな」と考えます。最近、宗教文化教育をずっとやっているのも、そういう思いがあるからなのです。



――『図解雑学 宗教』では、子どもから大人まで幅広く読めますね。


井上順孝氏: 最初に図解をやったのが、その本で、それまで講義していた内容をもとに本にしました。あの本に描いてある図は、手描きのものが元となっています。専門家や他国の人にも色々と話を聞いたりして、イラストレーターにも細かく指示しました。図を間違うと宗教についての間違いになるので、とても重要です。写真の場合も適切なものを提供しなくてはいけません。
もちろん、テキストはテキストの重要性があります。一言一句、「これは原典と違っていないか」というように注意を払うのと同様に、イラストを描く場合でも、可能な限り注意を払うべきなのです。
私の性格上そういう部分には、結構こだわるんです(笑)。遊んでいる部分と、「ここは正確でなければいけない」というところがあるのです。

“絵にする”ということは、実はごまかしがきかない。たとえば「イエスが神々しい姿で現れた」というのは、文章では書けるけれど、それを実際に描くとなったら、どんな服を着ているのか、どんな表情をしているのか、どこが神々しいかといったことを決めなければいけない。そこに「多少なりとも学術的な成果を」となるとさらに難しいですよね。

研究成果を社会と共有するのは当たり前のこと


――本が出されるまでには、いろいろな想いがあるのですね。


井上順孝氏: 「売れるかどうか」よりも「何を伝えるか」が、研究者である私には重要なのです。もちろん両方が合致するような本を、編集者と作っていければ幸いですが、部数で勝負という出版社や編集者もいます。そういったところからは「これだと売れません」というような形の注文をされることもあります。だから今は「ベストセラーみたいなものを作りたい」と思っている会社からの話は、基本的には受けないようにしています。

書き手の意図はどういうものなのか、はたしてこれで世に問うていいのかという判断が、出版社側にも必要ですよね。「この人は有名だし出せば売れる」という売り方も正直ありますし、「ベストセラーを作ってしまえばあとはどんなものでも売れる」というような法則で実際に世の中が動いていますよね。でもそれをやってしまうと、もう研究者ではなくなると私は思っているのです。研究者も色々なタイプの人がいて、一般向けに書いたとしても研究者のスタンスを崩さないという人と、「売れるのならば……」、という感じの人。でも、「あの人が書いたものを信用していいかどうか」という部分は、研究者仲間には分かるわけです。ただし、それを一般の人に求めるのは無理といっていいでしょう。

――学術書ならではの難しさ、そこに編集者の役割があるように思います。


井上順孝氏: 一般向けの本のために、良心的な編集者や出版社が残ってほしいですね。そうでないと悪貨は良貨を駆逐するという感じになってしまうかもしれません。専門書はどんどん電子書籍などになると思いますし、私はそれでいいと思っています。これから専門書は、基本的にはデジタルで出そうかなとも思っています。博士論文などは、基本的に、「100部とか、200部、買い取ってください」という条件で出すので、印税は入りません。それだったら、最初から電子書籍にした方が売れるし、色々な人に読んでもらえますよね。その方が学術的には意味がある。学術書は儲けるためのものはないので、電子書籍に推移していいと私は思っています。共有すべき知識を一般に出して、それをみんなが享受する。そのために色々と研究費をもらったりしているわけですから、還元して当たり前なのです。今、日本宗教学会の会長をしているのですが、『宗教研究』という年4冊刊行するうちの1冊は大会紀要号だから、別に紙にする必要がないと考え、電子化して一般の人もタダでダウンロードできるようにしました。

著書一覧『 井上順孝

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