辻田真佐憲

Profile

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。現在、近現代史や文化史をテーマに執筆活動を行っている。著書に、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)、『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『愛国とレコード』(えにし書房)、『世界軍歌全集』(社会評論社)がある。

Book Information

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“歴史”と“今”をつなぐ



文筆家、近現代史研究家の辻田真佐憲さん。政治と文化、娯楽との関係をひもとき、軍歌やプロパガンダなどの切り口で“歴史”と“今”を結ぶ文筆活動をされています。「今を考えるヒントに」発信される辻田さんの、執筆に込めた思いを、歩みとともに伺ってきました。

歴史と今を結びつける近現代研究


――政治と文化、娯楽との関係をひもとく執筆活動をされています。


辻田真佐憲氏: 過去の“歴史”が、“今”とどうつながっているのかという視点から、近現代のプロパガンダ、国歌、軍歌という切り口で研究、執筆をおこなっています。軍歌CDの監修や、軍歌に関する本も書いていますので、「軍歌研究家」として見られることもありますが、本来はそれに限らず、娯楽と政治・文化の関係を取り扱っています。2015年は戦後70周年ということもあり、各メディアでの対談やインタビュー、執筆と忙しい毎日を送っていました。

普段は自宅兼事務所で執筆しているのですが、扱うテーマ上、どうしても古い文献に当たることになるので、そうした資料が部屋に貯まる一方です。狭い部屋なので、天上まで、四方八方に摩天楼のように積み重なっています。



――最新の活動報告をされているTwitterアカウント名のreichsneetとは。


辻田真佐憲氏: 「ライヒスニート」と読むのですが、“ライヒ”はドイツ語で国家、それに“ニート”をつけて、国家に養ってもらっているもの、すなわち公務員という意味合いで名付けました。公務員を批判するとかではなくて、単純に私自身がその時公務員であったため、自虐的に命名しただけです。ついついネタを込めたくなってしまうのです。今は公務員を退職して、文筆業一本になりました。もともと好きだったミリタリーと、文学、執筆のきっかけとなるサイト開設など、助走期間を経て今に至ります。

根本の視座を哲学に求める



辻田真佐憲氏: 小さい頃の私は、どちらかというとゲーム好きのインドアな子どもで、ミリタリー関係が好きになったのも、中学生のときにハマった『提督の決断』というゲームがきっかけでした。

中学から私立の学校に通っていたのですが、電車通学の時間が長く、車内での読書習慣が身に付きました。そこでゲームから入ったミリタリーへの関心と、読書による文学への興味がつながりました。中学生の頃は、一流の詩人や音楽家も関わっていた軍歌、人文関係や詩が戦争にどう関わっていったのかに関心がありましたね。

中学・高校時代は、最寄り駅の古本屋にあった100円や300円コーナーの棚から、面白そうな本を片っ端から買い込んで、それを授業中ずっと読んでいました。ちょうどその頃、歴史教科書問題や、米国での同時多発テロなどが起こったときだったのですが、何が起こっているのかを知りたくて論壇誌の類いもすすんで読んでいました。不安定な世の中に対する、確固とした何かを求めていたのかもしれません。世の中の状況に応じて右往左往するのではなく、根本からの視座を求めたいと、大学は哲学専攻へ進むことにしました。

表現欲求の手段としてのホームページ『西洋軍歌蒐集館』



辻田真佐憲氏: 学生時代に学んだ哲学専攻では、ドイツ語やフランス語の原書購読をしていたのですが、「せっかくなら読むだけでなく、学んだことを表現したい」と思うようになりました。その頃よく読んでいた、「量子論と複雑系のパラダイム」というサイトの構成を参考に、自分の興味がある文系の分野をまとめようと思い始めました。

フランスやドイツに限らず、世界各国の軍歌を文語調などで日本語に訳す内容で、毎日のように訳しては、サイトに公開し続けました。他にも日本の歴史や文化についても書いていたのですが、需要と供給のバランスで、だんだんと軍歌の比重が増していき、はじめは別の名前でやっていたサイト名も『西洋軍歌蒐集館』となりました。



情報のネット 体験の読書



辻田真佐憲氏: その後大学院を経て、短期間公務員として働いていたのですが、ある日、そのサイトの書籍化オファーを受けました。その頃は、文筆業一本でやっていた訳ではなかったので、仕事が終わって、帰宅してすぐ執筆という毎日でした。自分の生きている証を確認するような、生存確認のような感じの二年間半でした。

――『世界軍歌全集』には、ドイツ語やフランス語以外のものも多数紹介されています。


辻田真佐憲氏: 辞書を買ってきては、格闘していました。軍歌の歌詞は200ワードくらいでしたが、パズルのように一句一句つなぎ合わせる感じ。三時間やって一行訳したり……あの当時だから書けたのだと思います。出版後、もっと執筆と研究に注力したいという思いが大きくなり、翌年一念発起して執筆活動を専業することにしました。働きながらやっていると限界がありますし、書かなくても食えてしまう状況を絶って、専念したかったのです。

本づくりを通して、学ぶことはたくさんあります。私はオタク志向なので、どうしても視野が狭くなってしまいますが(笑)、編集者の方が会話を通じて話題を広げて刺激してくれたり。また書くのはひとりですが、それに対するコメントなども、自らを冷静に見つめ直せるので貴重なものです。

本は、知識を得る最良の手段です。体系だった知識を、読書によって血肉化できる。昨日読んだネットの情報は忘れても、本であれば、10年前に読んだものであっても、忘れていないものです。

執筆にあたっては、単なる歴史の本にならないよう、「今」とどうつながっているのかという側面をとても重視しています。現代と歴史を往復することで、「今」が見えてくる。そしてアカデミズムではやらないような、自分にしか書けないものをめざす。そうした考えで書いています。

「今」を考えるヒントを届ける



辻田真佐憲氏:楽しいプロパガンダ』は、今までの自分の研究分野をどう広げていくのか、またそれと同時に、現在社会のなかでどうその知識を役立てていくのかを考えて書きました。私のウェブサイトには「本は私の魂の指標ではない」というオウディウスの言葉を掲げていますが、要するに「ここに書いてあるものは私の心を示している訳ではない。軍歌を扱っているけど、思想に共鳴している訳ではないですよ」という表明でもあります。

――あくまで、研究の成果だと。


辻田真佐憲氏: 政治主張の道具にはしたくない。自分がプロパガンダの主体になってはいけないので、そこは気をつけています。こうした研究が出来るのも、一定の安定した社会基盤があってこそ。その社会に貢献できるものを、今を考えるヒントになるものを、今後も様々なメディアで発信していきたいと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 辻田真佐憲

この著者のタグ: 『海外』 『哲学』 『考え方』 『政治』 『歴史』 『研究』 『レコード』 『子ども』 『メディア』 『文系』 『アカデミズム』 『ドイツ語』 『日本語』 『ホームページ』 『古本屋』 『文化』 『近代』 『娯楽』 『ミリタリー』

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