C.W.ニコル氏: 2つありまして。作家としての活動と、荒れた森を購入し、生態系を蘇らせる活動を30年近くしています。今はその一環として、被災地の自然再生や森の学校つくりのお手伝いをしています。
最近気になっていることがあります。これは文明国で、もの凄く重い問題になっていることです。それは英語で言うとNDS。Nature Deficiency Syndrome。自然欠乏症候群。20年ぐらい前からいろいろな文明国で、学校のクラスの中で落ち着かない子、じっと出来ない子、我慢できない、すぐキレる、友達とうまくいかない子などが多く出てきました。20年ぐらい前までは、環境ホルモンが原因とかいろいろと思われていました。例えばカナダや、英国、カルフォルニアなどは子どもに害になるような食品や環境にすごく気をつけているんです。しかし、そうではなく、他に原因があると分かってきました。
その子どもたちは、脳がバランス良く発達していなかったのです。これはどういう事かと言うと、子どもは2本足で立ってから少しづつ周りを探検して、五感を使い小さな物を見つけたり、遠くを見たり鳥を見たりと自然の中で一つ一つ判断しながら歩くことで脳が発達するんですが、その体験がなくなっているんですよ。
――自然と隔絶されているという事ですね。
C.W.ニコル氏: うん。だから脳がちゃんと成長していないんです。例えば、簡単な事ですけどね、夏休みだったら今まで英国では、何人かの子どもが木から落ちて怪我する。しかし、今はもう無いです。その代わりに自分のベッドから落ちて怪我する子が圧倒的に増えているんです。
――それはどういったことを意味するんですか。
C.W.ニコル氏: いろいろな精神的、身体的なバランスがとれていないです。今、僕はものすごく気をつけて見ているんですけど、日本の若い人が、例えば僕があなたに話をしていますね。もしそこに誰かが動いたら、ねずみが走ったりしたら、すぐにキャッチをするんですよ。
――人と話をしていても分かるということですか。
C.W.ニコル氏: もちろん。この下に虫が走ったら私はすぐに分かる、それで見ます。今レストランに入っても、例えば注文をしたいお客さんがいて、手を挙げても店の人は気が付かない。目の前の狭い範囲しか見ていないんです。それに木の名前を知らない、鳥の名前を知らない。身体が弱い。これは本当に問題ですね。ブックスキャンさんがどういう会社か知っているよ。でも、PCのスクリーンばっかりを見ていると、人は本当に馬鹿になる。これは道具ですからね。すばらしい道具ですけど、それが世界のすべてになったらダメなの。
僕もコンピュータは、ちゃんと使っていないだろうけど、便利な事は便利ですよ。原稿を書いている時に、スペルを知らないと、サッとスペルチェックですぐに調べられるでしょ。あと歴史の事。あれいつでしたっけ?と。縄文時代は何千年前だとか弥生時代がいつ始まったかとか、いろいろな歴史もサッとSafariに行ってすぐに調べられるんですよね。GoogleとかYahooは本当に便利です。それは認めています。でもやっぱり時々外へ行かなくちゃダメ。特に子どもの場合。
――電子書籍などの場合は、本は違っても触る感覚は全部同じになりますね。
C.W.ニコル氏: うん。でも何冊も入るでしょ?
――何冊も入ります。だから便利なところもあります。
C.W.ニコル氏: これは北極にあったらすごく便利。ただ、北極だったらバッテリーはすぐにダメになりますね(笑)。ソリの中に入れたらすぐにダメになるな。冬だったらね。
――電子書籍によって教育の機会が世界の何処にいても、均等に与えられるようになるかと思いますが、そういったところはどのように思われますか。
C.W.ニコル氏: そうですね。その通り。だから僕はこういう物は、もの凄くいいと思っている。だから、これが全てじゃダメ。
――強さ、勇気だけだとバランスを崩してしまうけど、そこに優しさが加わることによって、均衡のとれた人間になると仰っていたと思います。テクノロジーにしても、何にしても、バランスが大事ということですか。
C.W.ニコル氏: うん、そうですね。私は日本で120冊以上出版しているけど、ほとんど絶版。だから、本当の事を言うとね(笑)インターネットパブリッシングをやりたくてしょうがいないんですよ。ただ、やり方がわからない。
本はね、例えば北極探検に行く時に、ソリに乗るとか貨物用のカヌーに乗ったりカヤックに乗ったり、それから荷物を背負って行くとか、ヘリコプターを使う。僕は一番長い探検は19ヶ月だったんですよ。そうするとテレビは無かったし何も無いから、本しかないのよ。じゃ、どのぐらい本を持っていけるの、1年半分の本をね。どういう物を持って行くか、reference booksばっかりじゃ面白くないね。でも、小説とか1回読んだら、次の違うのが欲しいからね。だからその弱さがあったんです。
また、日本の東京や小さなところに住んでいたら、本棚の場所が無い。特に子どもがいたら、ちょっと大変だなと思いますよ。うちのスタッフはiPadを使っていますよ。iPadを使って森の中で案内しますね。