C.W.ニコル

Profile

1940年7月17日、ウェールズ生まれ。日本国籍の作家、ナチュラリスト。17歳でカナダに渡り、その後、カナダ水産調査局北極生物研究所の技官として、海洋哺乳類の調査研究に当たる。以降、北極地域への調査探検は12回を数える。1962年に空手の修行のため初来日。1980年、長野県に居を定め、執筆活動を続けるとともに、1986年より、森の再生活動を実践するため、荒れ果てた里山を購入。その里山を『アファンの森』と名付け再生活動を始める。2002年、より公益的な活動を全国展開するために、「財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団法人」を設立し、理事長となる。2005年、英国エリザベス女王陛下より名誉大英勲章を賜る。

Book Information

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――早速ですが、今現在どんな取り組み・お仕事をされていますか。

C.W.ニコル氏: 2つありまして。作家としての活動と、荒れた森を購入し、生態系を蘇らせる活動を30年近くしています。今はその一環として、被災地の自然再生や森の学校つくりのお手伝いをしています。
最近気になっていることがあります。これは文明国で、もの凄く重い問題になっていることです。それは英語で言うとNDS。Nature Deficiency Syndrome。自然欠乏症候群。20年ぐらい前からいろいろな文明国で、学校のクラスの中で落ち着かない子、じっと出来ない子、我慢できない、すぐキレる、友達とうまくいかない子などが多く出てきました。20年ぐらい前までは、環境ホルモンが原因とかいろいろと思われていました。例えばカナダや、英国、カルフォルニアなどは子どもに害になるような食品や環境にすごく気をつけているんです。しかし、そうではなく、他に原因があると分かってきました。
その子どもたちは、脳がバランス良く発達していなかったのです。これはどういう事かと言うと、子どもは2本足で立ってから少しづつ周りを探検して、五感を使い小さな物を見つけたり、遠くを見たり鳥を見たりと自然の中で一つ一つ判断しながら歩くことで脳が発達するんですが、その体験がなくなっているんですよ。

――自然と隔絶されているという事ですね。


C.W.ニコル氏: うん。だから脳がちゃんと成長していないんです。例えば、簡単な事ですけどね、夏休みだったら今まで英国では、何人かの子どもが木から落ちて怪我する。しかし、今はもう無いです。その代わりに自分のベッドから落ちて怪我する子が圧倒的に増えているんです。

――それはどういったことを意味するんですか。


C.W.ニコル氏: いろいろな精神的、身体的なバランスがとれていないです。今、僕はものすごく気をつけて見ているんですけど、日本の若い人が、例えば僕があなたに話をしていますね。もしそこに誰かが動いたら、ねずみが走ったりしたら、すぐにキャッチをするんですよ。

――人と話をしていても分かるということですか。


C.W.ニコル氏: もちろん。この下に虫が走ったら私はすぐに分かる、それで見ます。今レストランに入っても、例えば注文をしたいお客さんがいて、手を挙げても店の人は気が付かない。目の前の狭い範囲しか見ていないんです。それに木の名前を知らない、鳥の名前を知らない。身体が弱い。これは本当に問題ですね。ブックスキャンさんがどういう会社か知っているよ。でも、PCのスクリーンばっかりを見ていると、人は本当に馬鹿になる。これは道具ですからね。すばらしい道具ですけど、それが世界のすべてになったらダメなの。



僕もコンピュータは、ちゃんと使っていないだろうけど、便利な事は便利ですよ。原稿を書いている時に、スペルを知らないと、サッとスペルチェックですぐに調べられるでしょ。あと歴史の事。あれいつでしたっけ?と。縄文時代は何千年前だとか弥生時代がいつ始まったかとか、いろいろな歴史もサッとSafariに行ってすぐに調べられるんですよね。GoogleとかYahooは本当に便利です。それは認めています。でもやっぱり時々外へ行かなくちゃダメ。特に子どもの場合。

――電子書籍などの場合は、本は違っても触る感覚は全部同じになりますね。


C.W.ニコル氏: うん。でも何冊も入るでしょ?

――何冊も入ります。だから便利なところもあります。


C.W.ニコル氏: これは北極にあったらすごく便利。ただ、北極だったらバッテリーはすぐにダメになりますね(笑)。ソリの中に入れたらすぐにダメになるな。冬だったらね。

――電子書籍によって教育の機会が世界の何処にいても、均等に与えられるようになるかと思いますが、そういったところはどのように思われますか。


C.W.ニコル氏: そうですね。その通り。だから僕はこういう物は、もの凄くいいと思っている。だから、これが全てじゃダメ。

――強さ、勇気だけだとバランスを崩してしまうけど、そこに優しさが加わることによって、均衡のとれた人間になると仰っていたと思います。テクノロジーにしても、何にしても、バランスが大事ということですか。


C.W.ニコル氏: うん、そうですね。私は日本で120冊以上出版しているけど、ほとんど絶版。だから、本当の事を言うとね(笑)インターネットパブリッシングをやりたくてしょうがいないんですよ。ただ、やり方がわからない。

本はね、例えば北極探検に行く時に、ソリに乗るとか貨物用のカヌーに乗ったりカヤックに乗ったり、それから荷物を背負って行くとか、ヘリコプターを使う。僕は一番長い探検は19ヶ月だったんですよ。そうするとテレビは無かったし何も無いから、本しかないのよ。じゃ、どのぐらい本を持っていけるの、1年半分の本をね。どういう物を持って行くか、reference booksばっかりじゃ面白くないね。でも、小説とか1回読んだら、次の違うのが欲しいからね。だからその弱さがあったんです。

また、日本の東京や小さなところに住んでいたら、本棚の場所が無い。特に子どもがいたら、ちょっと大変だなと思いますよ。うちのスタッフはiPadを使っていますよ。iPadを使って森の中で案内しますね。

――iPadを使ってですか?


C.W.ニコル氏: 使っていますよ。色々な植物、動物とかのデータとかを見ています。重宝しています。お客さんにも「昔、この森はこうだったよ」とかね。これがすっごく役立ちます。前は紙芝居みたいなものを使って説明していたんです(笑)。正直けっこう荷物になっていましたけど、iPadは簡単。

――SafariやAmazonどちらとも、自然に関わりのある言葉ですね。それって、人間がインターネットの中にいても、冒険をしたいという心があってそういった名前にしているんじゃないかと、今のお話し伺って思いました。


C.W.ニコル氏: 特に若いオスは冒険するはずですよ。動物もそうですよね。脳と背骨がある動物は。若いオスは冒険するんですよ。それで生き残った物はメスといっしょになれるんですよね。

――興味深いです。それでは本に関わる内容ということで、子どもの頃の読書体験というのもお伺いしたいと思います。


C.W.ニコル氏: あのね、私は英国のウェールズ生まれですね。小さい時からイングランドの学校に行ったら先生がABCを教えてくれる。Aというとんがった形を書いて『A is for apple』。Aはエイ、Aはアじゃないです、僕にとっては。
それから『B is for bat』。Bはビィ、Bはバじゃない。『C is for cat』。何を言っているか分からない。オカシイと思っていたんですね。

まだ僕はウェールズ語をしゃべっていたらしいですね。だから英語を一生懸命覚えなくちゃいけない。とんちんかんな事を言っているなと思ったら、先生が私にウェールズの馬鹿だと言われた。それから5年間ずっと。学校へ行かないとダメだけど、僕の子どものころは、子どもが学校に行かないと警察が家に来ます。どうして子どもを学校に行かせていないのか。それでも行かないと親から取られちゃうよ。

――厳しいですね。


C.W.ニコル氏: だから私は母を守って学校に行ったけど、学校の中で何をしても言う事をきかない。殴られて髪の毛を引っ張られて、耳をひっぱられて。だから10才まで本は読めない。自分の名前も書けなかった。母が病気になって僕は1年ウェールズに帰ったんです。学校は変えて。

ある日、私のじいさんが座る椅子に知らないおじさんが座っているの。そのおじさんの横に紅茶とばあちゃんが作る美味しいビスケットがあるんですね。という事は特別なお客様ですね。で、名前はMr.トーマス。トーマスはウェールズでは、鈴木さん田中さんみたいなね。だから何とも思わなかった。このおじさんは私のじいちゃんの飲み友達だったんです。そして僕が字が読めないと言ったらもの凄く褒められた。

――褒められたんですか?


C.W.ニコル氏: 褒められた。『よく頑張ったね』と。『それで学校嫌いですか』と。僕は『大嫌い』と言ったね。それで『どうして』と。『だって先生は馬鹿だ』といったら、そのおじさんが『その通り』って(笑)。

――(笑)。


C.W.ニコル氏: 出来る人はやるの、ね?出来ない人は教えるの。それで教える事も出来ない人は評論家になるとそのおじさんが言ったんです。ああ、おじいさんと似たような考えだなと。その最後に「やりたいなら、出来るな、それだけわかって」と言ったんです。

私は、1ヶ月以内のうちに漫画を読みたかったんです。いつも優しい叔母がいて、その家に、まだ結婚していない母の一番下の妹がいて。彼女はいつも僕に漫画を読んでくれていたの。でも彼女は恋をして、いつもボーイフレンドの所にいっているの。だれも読んでくれない。本当に嘘じゃないですよ、一晩で読む事を覚えた、どうしても。

――読みたいと、強い心で。


C.W.ニコル氏: うん。その後も11才になったら、運よく英国はどこの田舎に行っても近くにいい図書館があるんですよ。だからもう毎週、図書館に行って、本をいくつも借りて。電気は消されても、私は布団の中に入って懐中電灯で本を見ていたんです。結局目がおかしくなったんですね(笑)。それぐらいに夢中になった。

――10才、11才まで止められていた知識の洪水がどっと入って来たんですね。


C.W.ニコル氏: そう。それで英語圏の子どものクラシック、ロビンソン・クルーソーとか、アリス・イン・ワンダーランドとかも全部読みましたね。私は運良くいい大人と出会えました。それで、本を読み出した。でも我々の家庭はお金がないから、毎週新しい本を買えるわけないですね。でも、図書館という良いものがあった。そしてその図書館に優しいおばさんがいて、『この本どうでした? 好きでした?どういう所が好き?』と話をしてくれていたんですよね。

――立派な先生ですね。


C.W.ニコル氏: うん。『じゃあ、これはどう?』と。『これ面白いよ』とかね。すっごくあれは僕の人生には大きかったんですね。

18才の時に、大好きな詩人がいて、その人の昔の33版のLPを買ったんですよ。この詩人が自分の声で話をしている。ウェールズの中で一番有名な詩人です。ディラン・トーマス。

あのトーマスさんは、実は世界で一番有名な詩人だったんです。

――おじいさんの座る椅子に座ってた方が、ディラン・トーマスさんだったんですか。


C.W.ニコル氏: そうなんですよ(笑)。でも知らなかった。声を聞いて、『あっ!!』てね。18歳で、8年しか経っていないから、もの凄い印象に残っていて。それで顔写真があって、『この人だ!!!』って(笑)。

――トーマスさんは、10才の時に会われた時に『僕は詩人をやっていた』とか、何も言わなかったんですか。


C.W.ニコル氏: 言わない。

――18歳の時に気付かれたんですね。


C.W.ニコル氏: うん。たぶんあれは、じいちゃんが心配して相談したんだよ。



――学ぶべき所は、学校だけじゃないということですね。いい大人がいい本を紹介してくれて、知的探検をさせてくれて、教えてくれたんですね。


C.W.ニコル氏: だから私は、先生は特に日本か英国かフランスの先生は7年に1年、他の事をやるべきだと思うんですね。カナダには、7年に1年、サバティカルという休暇制度があります。

――先進国の先生はということですか?


C.W.ニコル氏: うん。先生だけやっちゃだめなの。何か自分の好きな事でも何でも、それで給料をちゃんともらって。勉強しなさいとか、何かやりなさいと、労働しなさい、探検しなさい。Sabbatical、そうした方が良いなと思う。

――先生は先生しかやっていないから分からないこともありますよね。


C.W.ニコル氏: それで自分の事を先生と言うでしょ? おかしいよ(笑)。

――(笑)。


C.W.ニコル氏: 『あなたは何をしている?』『先生です』って。学校の先生だとしょうがないだろうけどな…。

――『教師です』と言った方が適切かもしれないですね。


C.W.ニコル氏: 子どもたちには『先生はどうのこうの』って。そうじゃない人もたくさんいるだろうけど、それを聞いて、こういう人は探検に行くかアフリカに行くか他の国に行って新しい言葉を覚えたほうがいいとか、労働者で勤めたほうがいいとか、何かやれよと思った(笑)
子供たちは、学校も大事だけど、学校は何のために行くのかというと、生き方を学ぶためでしょ。それから学び方も学ぶでしょ。

――今まで読んできた本の中で、影響を受けた本というのは、最初は漫画だと思いますが、それはどういった漫画ですか。


C.W.ニコル氏: いい漫画があったんです、英語で。毎週出てくるEagleという漫画だったんです。何十年も続けたんですけど、もうないですね。
長い物語や、宇宙の旅とか、色々と。パイレーツの話とかいろいろなのがあったんですね。もちろん、あの当時からスーパーマンとか、そういったものも手に入ったら読んでいましたけどね。高かったからね。

――日本に住まれてもう50年ですよね。来日した時と、今の本屋さんの印象って変わりましたか。


C.W.ニコル氏: 日本に来てからのこの50年では本屋が少なくなったという感じがするね。英国の僕が子どもの頃に本は、誕生日とクリスマスのプレゼント。でもね、さっき言ったように図書館があるから、図書館はどんな本でも手に入れてくれるよ。

――こういう本が読みたいんだけど、と。


C.W.ニコル氏: うん。無ければ絶対に手に入るというシステムがあったんです。

――そういう所が素晴らしいですよね。今現在、本をどれぐらい読まれていますか。


C.W.ニコル氏: 勉強しない日はほとんど無いですね。だから楽しんで本を読むのは週1冊か2冊だね。

――仕事の本を読むこともたくさんありますか。


C.W.ニコル氏: ありますね。生物学は終わりがないですね。森の勉強だったら、僕は信州の森は普通の人より知っているだろうけど、九州に行ったらわからないね。沖縄に行ったら十何種類の木は知っているだろうけど、足りないですね。

――どういった内容の本を読まれるんですか。


C.W.ニコル氏: 今、私のリュックサックに入っている本は、1つは分厚い歴史ファンタスティックみたいな、1300ページ。龍が出たり龍を飼っている殿様がいたり。そういう全くふざけているファンタジー。と、真面目な歴史の本。

――どちらとも英語で書かれた本ですか。


C.W.ニコル氏: はい。日本語は子どもの本しか読めません。何故かと言うと漢字が3つ並んで、1つ読めないと分からないでしょ? だから子どもの本ですね。

――英語の本は、取り寄せるという意味では今と昔で比べたら差がないですか。


C.W.ニコル氏: ええ、賢い人はAmazonとかそういうので注文してすぐ手に入れるでしょ。僕そこまで、技術が進んでいない。だから本屋さんに行きます。本当はAmazonで注文できるように、賢くなったらいいけどね。孫に頼んで教えてもらおうかな(笑)。

――以前、『どうして信州に住んでいるんですか?』とか、『どうして信州に決めたんですか?』という質問に答えないようにしていると、仰っていたと思いますが、なぜですか。


C.W.ニコル氏: いや、あのね、人によって僕は黒姫に住んでいるのはおかしいと思っているんですよね。大都会に住まないと変だと思っているんです。黒姫に来て我々の森を歩いて、僕のサウナに入って、サウナの後で冷たいビールを飲んでから、『黒姫はどこがいいですか?』と聞かれる。



僕の書斎に大きな窓があるんですね。そこには森があるんです。今は葉っぱがあるから涼しいです。冬はそれが落ちて雪になるから、お昼になるとブラインドを降ろさなきゃならないんです。明るくて、眩しい。遠くに山が見えるんです。ここにまた大きな窓があって、そこから戸隠、黒姫山が見える。鳥居川が私の書斎の6m先に流れているんです、美しい川が。『何がいいか?』と、それを説明しなくちゃいけないとなったら、困るんです。

―― 1番最初にあったお話だと思うんですけど、質問される方たちは、感じる体験をしていないから感じることが出来ないのかもしれないですね。

        

C.W.ニコル氏: そうかもしれません。黒姫を選んだのは、大先輩の谷川雁という詩人が住んでいたんですね。雁さんといっしょに古事記や宮沢賢治の翻訳とか。そういう仕事をしていたんですね。僕のオリジナルのストーリーも書いていました。雁さんがいたから黒姫に決めた。でも田舎だったらいろいろな所が大好きですけどね。

――ご自宅にはサウナがあるんですか。


C.W.ニコル氏: うん。家の裏、林の中に。俺がどうぞという方が入れます(笑)。大きなお風呂もあるんですけど、水風呂ですけどね。家の中にはもちろんお風呂があるよ。サウナは5人ぐらい入れるかな。

――東京の下北沢にもオフィスお持ちですよね。


C.W.ニコル氏: そうです。下北沢にも行きますよ。

――下北沢は小さい飲み屋さんもあったりしますね。


C.W.ニコル氏: 黒姫の家の近くに居酒屋がないという事は寂しいですね。

――どんなお酒がお好きですか。


C.W.ニコル氏: 焼酎とか。僕は何でも好き。実は日本で、英国が恋しいなぁというのはパブ。英国のパブが恋しい。それからユーモア。みんながいつも冗談を言っているんですね。みんな言っているから。テレビの笑い番組は、本当に英国のは笑えますね。日本の笑い番組は、昔のドリフターズとか、クレイジーキャッツとか、それぐらいのものだったな。今のは…何か面白くないですね。『いじわるばあさん』というやつ。あれもおかしかったな。

――(笑)。


C.W.ニコル氏: 日本にはユーモアがあると分かっているけど、自分のまわりにはあまりない。日本人によっては、いちいち、僕の女房もそうですけど、ユーモア、冗談を言うと説明をしなくちゃいけない。そういう人が多いです。

――英国だと、ローワン・アトキンソンさんとか。


C.W.ニコル氏: そうそうそう。ミスター・ビーン!

――ああいう方というのは、英語がわからなくても笑うことができますよね。


C.W.ニコル氏: そうそうそう。

――世界人類共通のユーモアを持っていらっしゃいますよね。


C.W.ニコル氏: はい。私はそのユーモアにチャレンジしてみたんですよ。英語で書いて翻訳された本があるんですよね。『しらかばの物語』。でも、その“しらかば”は木じゃなくて、白いカバです。それでテーマは誤訳。間違った翻訳。いつか読んで。

――はい、読みます!


C.W.ニコル氏: 内容はスケベですけど。

――あ、そういう本なんですか(笑)。


C.W.ニコル氏: そう。それから『帰ってきたたぬき』。それもユーモアですね。

――英国のお笑いは、本当にユーモアに溢れていますよね。


C.W.ニコル氏: 溢れていますね。

――他に何か恋しい物、ありますか。


C.W.ニコル氏: まあ、その2つぐらいですね。それから、ウェールズだったら歌ですね。今はちょっと変わっているけど。こういうような事があるんですよね。10人の英国人が集まったら並びます。10人のアイルランド人がいたら戦争になる、喧嘩になる。10人のウェールズ人だったら合唱団。

――それぐらいみなさん歌が好きなんですか。


C.W.ニコル氏: うん。パブの中でも歌っているんですからね。

――日本にも以前はありましたか。


C.W.ニコル氏: あった。でもあの文化を殺してしまったのは、カラオケですね。ウェールズ人は、すぐハーモニーになっちゃうんですね。

実はね、戦争が終わって間もなくだったかな。スコットランドの島と島の間に貨物船が沈没したんです。で、その貨物船がウィスキーを運んでいたんです(笑)。で、そのウィスキーを村の人が全部かっぱらって(笑)色々な所に隠していたんですよね。で、50年後でも時々出でくる(笑)。酒税払っていないから、政府は必死に探してね。何人か刑務所に入ったんです。でも言わないんです、どこに隠していたか。

――面白い話しですね(笑)。


C.W.ニコル氏: そういう映画も作られたんですよね。

――映画とかにもパブはよく出てきますね。40人しかいないような村でもパブは絶対にあるんですか。


C.W.ニコル氏: それは絶対ありますよ。絶対。それから、これは本当の話で、スコットランドなんですけど、ある大地主がワインとウィスキーとブランデーとかのすごいコレクションがあったんです。で、彼の遺言で、僕が死んだ時に、このワインを全部墓に入れてくれと。それで村の人々がそれを聞いて、みんな男たちなんだけですよ、スコットランドの葬式は。みんなワインをお墓のまわりでガブガブガブガブ飲んで、しょんべんをかけてたって(笑)。これは本当の話。

――何かいいですね、残された人たちが、喜んで(笑)。おもしろいお話したくさん伺えてうれしいです。


C.W.ニコル氏: 実はね、私は1964年の11月、もう日本に2年以上いた時に、空手道場にちょっと変わった男がいて、白帯ですね。それで上半身はすごく筋肉がついているのに、足がニワトリみたいに細かった(笑)。いつも鏡で自分を見ているんですね。それで空手の若い先生達がその人を先生、先生と呼んでいたんです。でも俺は初段、黒帯。あいつは白。じゃあ、先生じゃない。で、僕は“君”と呼んでいたんですね。ミシマ君って。それでいじめていた。
それが、三島由紀夫(笑)。

――え!びっくりしました。


C.W.ニコル氏: 組み手やって。後で、先輩に、『あれは有名な作家ですよ。三島由紀夫って知らない?』って。でもユキオって通じなかった。実は僕は『潮騒』を読んでいて。こんなにいい小説は日本にはないと思っていたんですけど。あんな、いつも鏡を見ているあの男が、あんな繊細な物を書けると思わなかったんですよね(笑)。

――いろいろな事があるんですね。そういったのは、道場の中では普通なんですか。


C.W.ニコル氏: だと思うよ。段というか、レベルの上下関係がハッキリしている。

――それは外国でも同じなんですか。




C.W.ニコル氏: 外国の空手道場は、今の日本の空手道場より厳しい。昔の日本そのまま。日本のほうがよっぽどダラッとしているというか。ちょうど1960年代に3段上の若い先生が、世界中に行っちゃったんですね。特に我々の流派、松涛館は世界中に行きました。その人たちは、昔の空手のしきたりを教えているからね、厳しいです。

――技だけじゃなく、生活全般もですか。


C.W.ニコル氏: そう。技だけじゃなくて礼儀も。だからすっごく礼儀が正しい。

――色々な流派の方がいらっしゃるんですね。


C.W.ニコル氏: うん。松涛館が一番大きいです、数も。

――空手を遅く始められる方とかもいるんですか。


C.W.ニコル氏: いますよ。僕が知っているのは、60才を超えた人が、うちの道場に来ていたんですね。50才を超えた女性もいたんですね。全然遅くないですよ。

――運動神経とかも関係しますか。


C.W.ニコル氏: いや、空手のチャンピオンになろうと思ったらそれはあるでしょう。どのぐらい時間をかけられるかと。でも僕の編集者の友達1人は40を超えて空手を始めたんですね。で今、3段か4段かな。

――何か生活もメリハリがついてきちんとしそうですよね。最後にひとつ質問をさせて下さい。ニコルさんにとって、本というのはどういった存在ですか。


C.W.ニコル氏: いやぁ、それは本によるけど、そこに知恵があれば別の世界に逃げられるんですよね。だから今晩寝る前に私はたぶん歴史の本は読んでいないな、たぶんあのふざけているファンタジーの世界に入るのね。だから別世界の窓。

(聞き手:沖中幸太郎)

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