――英国だと、ローワン・アトキンソンさんとか。
C.W.ニコル氏: そうそうそう。ミスター・ビーン!
――ああいう方というのは、英語がわからなくても笑うことができますよね。
C.W.ニコル氏: そうそうそう。
――世界人類共通のユーモアを持っていらっしゃいますよね。
C.W.ニコル氏: はい。私はそのユーモアにチャレンジしてみたんですよ。英語で書いて翻訳された本があるんですよね。『しらかばの物語』。でも、その“しらかば”は木じゃなくて、白いカバです。それでテーマは誤訳。間違った翻訳。いつか読んで。
――はい、読みます!
C.W.ニコル氏: 内容はスケベですけど。
――あ、そういう本なんですか(笑)。
C.W.ニコル氏: そう。それから『帰ってきたたぬき』。それもユーモアですね。
――英国のお笑いは、本当にユーモアに溢れていますよね。
C.W.ニコル氏: 溢れていますね。
――他に何か恋しい物、ありますか。
C.W.ニコル氏: まあ、その2つぐらいですね。それから、ウェールズだったら歌ですね。今はちょっと変わっているけど。こういうような事があるんですよね。10人の英国人が集まったら並びます。10人のアイルランド人がいたら戦争になる、喧嘩になる。10人のウェールズ人だったら合唱団。
――それぐらいみなさん歌が好きなんですか。
C.W.ニコル氏: うん。パブの中でも歌っているんですからね。
――日本にも以前はありましたか。
C.W.ニコル氏: あった。でもあの文化を殺してしまったのは、カラオケですね。ウェールズ人は、すぐハーモニーになっちゃうんですね。
実はね、戦争が終わって間もなくだったかな。スコットランドの島と島の間に貨物船が沈没したんです。で、その貨物船がウィスキーを運んでいたんです(笑)。で、そのウィスキーを村の人が全部かっぱらって(笑)色々な所に隠していたんですよね。で、50年後でも時々出でくる(笑)。酒税払っていないから、政府は必死に探してね。何人か刑務所に入ったんです。でも言わないんです、どこに隠していたか。
――面白い話しですね(笑)。
C.W.ニコル氏: そういう映画も作られたんですよね。
――映画とかにもパブはよく出てきますね。40人しかいないような村でもパブは絶対にあるんですか。
C.W.ニコル氏: それは絶対ありますよ。絶対。それから、これは本当の話で、スコットランドなんですけど、ある大地主がワインとウィスキーとブランデーとかのすごいコレクションがあったんです。で、彼の遺言で、僕が死んだ時に、このワインを全部墓に入れてくれと。それで村の人々がそれを聞いて、みんな男たちなんだけですよ、スコットランドの葬式は。みんなワインをお墓のまわりでガブガブガブガブ飲んで、しょんべんをかけてたって(笑)。これは本当の話。
――何かいいですね、残された人たちが、喜んで(笑)。おもしろいお話したくさん伺えてうれしいです。
C.W.ニコル氏: 実はね、私は1964年の11月、もう日本に2年以上いた時に、空手道場にちょっと変わった男がいて、白帯ですね。それで上半身はすごく筋肉がついているのに、足がニワトリみたいに細かった(笑)。いつも鏡で自分を見ているんですね。それで空手の若い先生達がその人を先生、先生と呼んでいたんです。でも俺は初段、黒帯。あいつは白。じゃあ、先生じゃない。で、僕は“君”と呼んでいたんですね。ミシマ君って。それでいじめていた。
それが、三島由紀夫(笑)。
――え!びっくりしました。
C.W.ニコル氏: 組み手やって。後で、先輩に、『あれは有名な作家ですよ。三島由紀夫って知らない?』って。でもユキオって通じなかった。実は僕は『潮騒』を読んでいて。こんなにいい小説は日本にはないと思っていたんですけど。あんな、いつも鏡を見ているあの男が、あんな繊細な物を書けると思わなかったんですよね(笑)。
――いろいろな事があるんですね。そういったのは、道場の中では普通なんですか。
C.W.ニコル氏: だと思うよ。段というか、レベルの上下関係がハッキリしている。
――それは外国でも同じなんですか。
C.W.ニコル氏: 外国の空手道場は、今の日本の空手道場より厳しい。昔の日本そのまま。日本のほうがよっぽどダラッとしているというか。ちょうど1960年代に3段上の若い先生が、世界中に行っちゃったんですね。特に我々の流派、松涛館は世界中に行きました。その人たちは、昔の空手のしきたりを教えているからね、厳しいです。
――技だけじゃなく、生活全般もですか。
C.W.ニコル氏: そう。技だけじゃなくて礼儀も。だからすっごく礼儀が正しい。
――色々な流派の方がいらっしゃるんですね。
C.W.ニコル氏: うん。松涛館が一番大きいです、数も。
――空手を遅く始められる方とかもいるんですか。
C.W.ニコル氏: いますよ。僕が知っているのは、60才を超えた人が、うちの道場に来ていたんですね。50才を超えた女性もいたんですね。全然遅くないですよ。
――運動神経とかも関係しますか。
C.W.ニコル氏: いや、空手のチャンピオンになろうと思ったらそれはあるでしょう。どのぐらい時間をかけられるかと。でも僕の編集者の友達1人は40を超えて空手を始めたんですね。で今、3段か4段かな。
――何か生活もメリハリがついてきちんとしそうですよね。最後にひとつ質問をさせて下さい。ニコルさんにとって、本というのはどういった存在ですか。
C.W.ニコル氏: いやぁ、それは本によるけど、そこに知恵があれば別の世界に逃げられるんですよね。だから今晩寝る前に私はたぶん歴史の本は読んでいないな、たぶんあのふざけているファンタジーの世界に入るのね。だから別世界の窓。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 C.W.ニコル 』