時代を先駆けた電子書籍、結果は厳しいものだった。
――電子書籍のお話もさせていただきたいと思うんですが、だいぶ前に、『ザ・ビーチキーパー』を電子書籍で出されましたね。
戸梶圭太氏: 本当は紙の本で出したかったのですけど、たまたま担当していただいた方が電子書籍の会社の編集長になっておられて、「電子書籍の先駆けのようなことをこれからするので、どうですか?」とお誘いを受けました。ソニーのリーダーなどで読めるようにするということだったのですが、結果には惨敗でした。
内容は、アメリカですごく長く続いた『ベイウォッチ』というドラマのショボい日本版をやろうと思ったんです。水難監視救助隊員というのは、アメリカでは社会的に認められた立派な職業ですが、日本では季節労働者というイメージがあるようですね。
電子書籍に向いているもの、向いていないもの。
――電子書籍について、どのように感じていますか?
戸梶圭太氏: 成熟にはまだほど遠いですが、例えば「コタツで寝ながら一年で三億稼ぐ方法」など、そういう本は電子書籍にぴったりだと思いますので、まずそこから充実していけばいいのではないかなと思います。電子書籍に向いているものと向いていないものがあると思います。
――紙と、電子と、住み分けが必要なんですね。
戸梶圭太氏: 僕は、音楽は基本的にCDで買います。ダウンロード版は、あの実体のない感じが、明日になったら消えているような気がしてイヤなんです。聞けば同じなんですけど、データはデータでしかない気がします。ただ、自分がそれに慣れていないだけというのは絶対にある。何がいけないの?という人たちは既に出てきていると思うので、そういう人たちが増えれば、いや応なしにデータが当たり前になるでしょう。この流れはもう引き返せないし、やるしかないんだろうなと思います(笑)。
電子書籍がいろいろ遊べるようになったら面白い。
――戸梶さんご自身も、ウェブ、ITの力も活用されていますね。
戸梶圭太氏: 僕は最初、電子書籍って言われた時、「自分の作った音楽をテキストにつけられないんですか?」と言ったことがありました。例えばページの隅っこにボタンがあって、そのボタンを押すと自分が作った音楽が流れるといいと考えたんですけど、「できない」と言われました。タイトルが動くようになったり、色が明滅するような一行など、もうネットやブログなどでそういうものがあるので、それができて当たり前のような気がします。電子じゃないとできないことで遊べるようになったら面白いと思います。
編集者の手が入らない出版は考えられない。
――電子化していく流れの中で、出版社や編集者の役割はどんなところにあると思いますか?
戸梶圭太氏: テキストを完ぺきに仕上げるという意味では、電子になっても基本は全然変わらないので、つき合いも変わらずに続くと思います。自分だけで出版するなんていうのはあり得ないです。
――戸梶さんにとっての理想の編集者像はありますか?
戸梶圭太氏: 僕は編集者さんには、とても恵まれていると思うんです。「なぜこんなに自由に書かせてくれるの?本当にいいの?」とずっと思っているんです(笑)。
著書一覧『 戸梶圭太 』