ビジネスエンタメと「貧困学」
――働く上での理念や使命といったものはありますか?
鈴木貴博氏: 使命はすごく感じています。今は、大企業だけに、もうけをどんどん吸い上げられる世の中なってきた。資本主義が、そういった方向を作ってしまったのか、組織の中で働く人たちが、疲弊する世の中になってしまった。若い人たちにチャンスが少ない世の中へとシフトしていったのは、8、90年代当時のビジネスマンの責任であって、その一端を僕も担っている認識はあります。だからこそ、少しでも働く人たちに楽しい世の中を作っていきたいという思いがあって、ビジネスエンタメというのが1つのテーマなのです。
――今、研究において重視しているのはどのような分野ですか?
鈴木貴博氏: まだ積読状態ではありますが、もう1つの中心的な研究分野として考えているのは、貧困学です。貧困学の分野を解明して、世の中を変えていくポイントを見つけていきたいと思っているんです。なぜ格差が広がったのか、なぜ貧困というものから抜け出せないのかといったことに関する研究本は、今すごく出ている。今週のビジネスジャーナルの記事で、「ヨーロッパのブラック企業」というのがあるんです。日本でもブラック企業は問題になっているんですが、ドキュメンタリー番組を見て、「ヨーロッパのブラック企業は半端なくブラックなのだ」ということが分かって驚愕しました。ヨーロッパは地域統合しましたから、ドイツやフランスなどで働いている人たちが、アイルランドで契約して派遣で働いたりすることもあるのです。そうすると、アイルランドの雇用ルールの中でやっているので、社会保障費も払ってないし、非常に劣悪な労働環境の中で働かなければいけない、といった話なのです。日本の問題だと思っていたのが、実は先進国共通の問題だったりするんです。その気になれば勉強できる題材がたくさん世の中にあるのだから、それをきちんと読み説いて考えをまとめて、世の中に発信するのは僕の使命だろうと思っています。
読者と筆者のギャップを埋めてくれる存在、それが編集者
――出版社、編集者の役割とはどのようなものだと思われていますか?
鈴木貴博氏: 書きたいものとお客さん用に書いたものは微妙に違うのです。これはどんな商品でも同じで、自分が作りたいものと消費者が買いたいものは微妙に違う。その違いをきちんと編集者が埋めてくれて、「こういう風にすれば良い製品になるんだよ」ということを教えてくれる。理想像として少しハードルを高くすると「最高の企画マン」が編集者の理想像です。商品企画をしてくれて、ほんの少しの違いかもしれませんが、「こうする方が売れるんだよ」ということをアドバイスしてくれるとうれしいです。
――編集の方とのお付き合いはどのようなものですか?
鈴木貴博氏: 最近売れているのは『戦略思考トレーニング』という本です。編集の方とは長い付き合いで、もう3年くらい前から日経文庫で書いてもらいたいという話だけがあったんです。ある時編集の方がやって来て、クイズの本をいくつか見せてくれて、「この本、どれくらい売れていると思います?」と聞かれました。売り上げ部数を聞いたらびっくりするくらい売れている。僕も持っていたようなクイズの本がいくつかありましたが、「ジャンルが少ないから、実は出すと売れたりするんです。戦略の本をクイズ形式で書きませんか?」と僕に提案してくれて、『戦略思考トレーニング』が生まれたのです。
54歳までには、貧困学を極め、キーになる情報を発信していきたい。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
鈴木貴博氏: 先ほどの話にありました、貧困学の分野にチャレンジをして、「なぜ今このような世の中になってしまっていて、どうすればそれを変えることができるのか」ということについては、54歳までにはある程度めどをつけて、世の中に発信をしていきたいなと思っています。期待していてください。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 鈴木貴博 』