絶版になっている書籍の中には名著が多い。
今の出版界の問題解決をICTで!
情報学の博士であり、オラクルひと・しくみ研究所代表、ワクワク系(感性価値)マーケティング実践会を主宰されている小阪裕司さんは、ビジネスの現場で研究と実践をされながら、ビジネス書の著者としても大変著名です。そんな小阪さんに、本と電子書籍、ビジネスのかかわりあいについて伺いました。
良質な映画のように、エンターテインメント性があり長く読まれる本を書きたい
――早速ですが、小阪さんはセミナー、執筆、実践会とマルチに活動されていると思うのですが、昨年書きおろしの新刊が出ましたね。
小阪裕司氏: そうですね。書きおろしの単行本としては5年ぶり位です。新書と日経MJでの連載あたりをまとめた単行本化はしているのですが、書きおろしとしては5年ぶりですね
――執筆スタイルについてお伺いしたいのですが、書く時にどんなことを大切にされていますか?
小阪裕司氏: 役に立つのと同時に、読むこと自体が面白い本になるように心がけています。小説ではないので、面白おかしく書こうとするわけではないのですけども、その読み進むリズム感とか、時々笑えるようにとか。時間をかけて読んだだけの価値はあったと思われることが、必須条件だと思います。私は、良質な映画のような本をめざしています。
――映画ですか。
小阪裕司氏: ええ。私、もともと映画監督になりたかった人なのです。良質な映画ってすごく学びや気づきがあったり、生きる力をもらったりする。その一方でちゃんとエンターテインメントとして面白い。例えば、今回の本は、私のもうひとつの活動である研究の部分も入っています。よりアカデミックな部分がある。それでも、読み進むのがつらい本ではない。アカデミックなことが書かれていたり、少し考えさせられるようなことがあったとしても、面白く読み進め、読後感が良いものをめざす。それから2点目は、長く読まれる本を書くということですね。これは、一冊目からのポリシーです。ばっと売れてばっと消えていくというよりは、長く読まれる本を書きたい。私が大きな気づきがあった本のひとつに、『風姿花伝』という世阿弥の書いた本がありますけども、これは600年以上読みつがれてきたんです。そして21世紀初頭の私に気づきを与えるわけですから、すごいですよね。長く読みつがれる本には、普遍的なことが書かれている。そこは重要なポイントだと思うんですよね。その普遍性と、現在にその普遍性をどう応用していくとかっていうところに、また現代にあるべき本の姿があると思います。
――何年も残るものをめざされてるんですね。
小阪裕司氏: 600年位読みつがれたいですよね。私の場合は実践と研究が常に頭にあって、新しく知識や情報が更新されていくので、お伝えしたいことが増えていくんですね。そうすると、できるだけそれを盛り込んで、原稿にしてみます。でも盛り込みすぎる不親切っていうのがあって、読み手が腹に落ちるというところを意識して、一度書いたものを削ったりもしています。
「実践知」とは、ある日突然自転車に乗れるようになるような「知の体験」
――11月に出された本はどういった内容ですか?
小阪裕司氏: 11月に出た本では、例えば「実践知」について語っている箇所があります。実践知というのは、説明すると抽象的になるんですけども、例えば「自転車に乗れるようになること」みたいなことなんです。
――「自転車に乗れるようになること」というのはどういったことでしょうか?
小阪裕司氏: 実践知というのは、自分で実践をしたり、実際に実践ができている人たちのそばにいたりすることで身についていくタイプの知恵です。その実践知の身につき方は、ちょっと独特なんですね。突然上達するんです。これを抽象的に説明すれば、頭ではなんとなく分かっても、腹に落ちない。ところが、「それは自転車に乗れるってこととよく似ていて、自転車というのは、自転車に乗れるようになるための本を何十冊も読んでも乗れるようにならない。でも、ある日突然補助輪が外れるようになるでしょう?」と、こういうたとえ話をすると、みなさん腹に落ちるんですよ。その「ある日突然感」というのも分かりますし、多くの方が自転車には乗れますのでイメージしやすい。私が提唱していることが難しく感じても、「突然できるようになる日がやってくるのか」と思うとがんばれる。実際、私が提唱しているような実践知に関しては、もう身につけた人たちがたくさんいるんですけれども、やはり彼らもある日「突然腹に落ちた」と言います。「ある日突然見える世界が変わった」とかね。本に書く時は、このように実践知の特色をお伝えしつつ、「自分もやってみようか」と思ってもらえるような伝え方をしないといけない。そういう時に今の自転車の話などを書きます。そういう工夫は大事だと思います。
著書一覧『 小阪裕司 』