編集者からの「するどい質問」が、執筆には欠かせない
――こちらの本は博士号を取得されてから、初めての本になられるんですか?
小阪裕司氏: そうですね。
――何か書き手として変化みたいなものは生じましたか?
小阪裕司氏: 自分では全然分からなかったんですけど、担当編集者にも「すごく変わった」と言われました。博士号を取ってから、震災のことなんかもあってセミナーをしばらくお休みしていたんですが、セミナーを再開した時も、多くの方に「セミナーのやり方や構成が変わった」って言われます。文章については、角川の担当者の方に「まるっきり変わりましたね」って言われました。
――まるっきりですか?
小阪裕司氏: 小見出しの立て方まで変わったと言われました。自分でも最初のころの著作を読み、中間地点位の著作を読み、現在の本を読みと、冷静に読み返してみると「変わってきたな」っていうのは感じます。
――出版社の方とは、普段どういったやり取りをされていますか?
小阪裕司氏: とにかく頻繁に会って、ディスカッションをするんです。何を書くか、どう書くか、表現ひとつ、言葉ひとつ意見を交換します。というのは、もちろん出版社の方の意見をいただくっていうこともあるんですが、私自身が対話をしていると頭がさえるんです。コミュニケーションを取っていくと、内容がさらにまた深まりますね。
――小阪さんにとって理想の編集者は、対話ができる方なんですね。
小阪裕司氏: そう、質問のするどい人。編集の方に、「こう書いたら良いですよ」とか、「こういう風にしましょうよ」っていう意見はあんまり求めているわけではないんです。質の高い質問をしてくれると、脳がとても活性化するんですよ。
編集者とは二人三脚で「社会の仕組みを変える」仕事を担う
――編集者の方と内容を深め合いながら、二人三脚で本を書かれていらっしゃるんですね。
小阪裕司氏: 私は、私が提唱してることを実践することで、少しでも社会が変わる、新しい社会システムができていくっていうことを考えています。ですから編集の方は、その私のビジョンや、提唱することに共感してくれている方です。自分ひとりでは本は出版できないので、私は編集の方と二人三脚だと思っています。出版する方が、共感をしてくれて本を出してくれるからこそ、人目に触れていきます。だから、もともと私の提唱していることそのものにあんまり関心がないと、そういう二人三脚にならないんです。
――具体的にはどのように一緒にお仕事されていらっしゃるんですか?
小阪裕司氏: 例えば私が親しくさせていただいてる雑誌社や新聞社の編集の場合、お互いの役割分担みたいなものがあります。彼らは雑誌を編集したり、新聞を作ったりして、私はいわゆる世の中の事象を概念化したり、あるいは将来を予測したりっていうことをやっている。私1人が考えても発信できないと広まらないので、編集の方たちは広めるっていう役割をしてくださり、私は研究したり開発したり発信するってことを担う。こういう関係で物事が進められると、とても有意義な活動になりますね。
執筆場所には、独自のこだわりがある
――執筆のスタイルについてもお伺いします。普段どちらで執筆されていますか?
小阪裕司氏: 今の家に移り住んで落ち着ける環境になったので、今回の本は結構自宅で書きました。環境が大事なんです、私の場合。ですから、雰囲気とかの良い環境が必要ですね。でも、良い環境って落ち着けるとか、そういう端的なことでもない。昔、旅館にこもって執筆するのにあこがれていて、一度やってみたんですけど、筆が進まない(笑)。で、色々試してみたんですが、グリーン車で書くことが自分には向いていました。新横浜から福岡に行くっていうと、普通飛行機で飛ぶんですけど、新幹線ですと車中で時間がずっと使えるじゃないですか。どういうわけか、グリーン車の中だと仕事がはかどるんですね。あとはね、ちょっと気晴らしに場所を変える時は、横浜近辺のカフェとかに行くんですよ。そうするとわさわさっと人がいるんですけど、はかどるんですよ。私は人がたくさんいるカフェって好きなんです。ただ、どこでもカフェに行けばはかどるかっていうと、そんなことは全然ないので、好きな雰囲気のカフェがありますね。
著書一覧『 小阪裕司 』