小阪裕司

Profile

山口大学(美学専攻)卒業後、大手小売業・広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」設立。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。全都道府県から千数百社が集う。学術研究にも注力し、2011年に博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。「日経MJ」(日本経済新聞社)での長寿コラム「招客招福の法則」が人気を博す他、連載・執筆多数。産官学にまたがり年間80回以上の講義・講演を行う。九州大学客員教授、静岡大学客員教授、宇都宮大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。
【公式サイト】http://www.kosakayuji.com/

Book Information

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今までに印象深い一冊は『社交する人間』


――今回は本のインタビューなので、本についてもお伺いしたいと思います。小阪さんにとって、印象深い一冊を教えていただけますか?


小阪裕司氏: 印象深い本と言われて思いつく本は、数冊常にあります。山崎正和先生の『社交する人間』(中央公論新社)っていうのは、特にビジネスやっている人にとっては、ビジネスのことだけを書いている本ではありませんが、重要な知見があります。山崎さんはもともと劇作家でいらっしゃるし、文化文明史の研究者でもあります。経済・経営の角度ではなく、人間社会ってものが、どうずっと営んできて今やどうなろうとしているかということを山崎先生なりの、フレームワークと、博識なところからひもといておられる。しかも劇作家でいらっしゃるので、とても美文、美しい文章でね。すばらしい一冊です。私はビジネスの研究者ではなくて、人間の研究者ですから人間について書かれた優れた書物は、好きですし、そういう本に多大なヒントがあります。でもこういう書物は意外と手に入らなかったりするんです。

――今でもふらっと書店に立ち寄られたりすることってありますか?


小阪裕司氏: あんまり時間がなくてね。でも、ものすごく書店は好きですね。特に至福の瞬間は古本屋巡りですね。最高ですよ、やっぱり。すごい出会いがありますもんね。本って知の宝庫ですから。本を読まない人は、本当に人生を損していると私はつくづく思う。自分が本を書いていて、一冊の本にこんなに色んな情報を詰めているってことは実感があるので、優れた書物ってそれ以上に知恵を詰めてくれているはずなんです。こんな値段で、こんなに知恵をもらっちゃって良いのかって感じですよ、本当に、優れた書物はね。読みながら、メモを取ったり、最近の自分と置き換えてみたりできる。めちゃくちゃお徳です。

電子書籍は利用していないが、時代の流れには逆らえない


――小阪さんは電子書籍は利用されてますか?


小阪裕司氏: 今のところ使わないですね。文献をたくさん持っていかざるを得ない時って、電子だったら良かったみたいなことを思います。今学会なんかも進んできていますので、ネットで検索して、論文とかダウンロードできるようになってきています。紙しかなかったころは、もう大変でした。国会図書館に行って、検索したりしなきゃいけないとか。電子書籍にはそういう利便性の側面はまず当然あるなとは思っていますが、あえて使わないってわけでもないんですが、まだ使ってみたことがない。物理的な本として読むこと自体が好きですね。

――本の良さはどんなところにありますか? 


小阪裕司氏: 多分、知に触れている感が本の方があるんですよ。ただ、せっかく電子化というインフラがあって、その恩恵を受けない手はないんじゃないかっていうのもある。社会がそういう風に変わって来ているわけだし。それは個々の取捨選択でしょうけども。ただ、紙の時代が終わって電子になるっていうのは、ちょっと私は意見が違います。確かに文は同じように書かれていて、頭の中には同じ意味は入って来るけども、本を読むという行為、知に触れるという行為が、私は電子となると違うんじゃないかと思うんです。そこを皆が分かった上で、電子を大きく育てていけば、電子出版が伸びると同時に紙も伸びるんじゃないかな。ほぼ電子しか触れたことのないような人は、大体若い子だろうけども、そういう人たちには、本というものから触れる面白さを教えてあげないといけないと思います。

――では、用途に応じて使い分けていければいいんですね。


小阪裕司氏: やっぱり大量に持ち歩いてスピーディーに読みたい時、例えばずっと出張続きで移動中にどうしても文献をたくさん読んで情報を入れなきゃいけないとかという時は、電子化されていたら最高ですね。いわゆる論文じゃなくて書籍化された文献は、電子書籍に出してほしいですよね。そうするとやっぱり20冊、30冊ぽんと持って出られて、検索もできて、良いと思うんですよね。既存の本の電子化については色々な意見がありますね。出版社にとっては、やってほしくないなということもあると思うんです。でも、ICTがどんどん発達してきて、新しくできることが増えていった時に、社会そのものがどう変わっていくかっていう流れには、あらがえないところはあると思うんですよ。ただ、その中で著作権をどう考えていくかとか、色んな問題をまた皆で議論していかないといけないでしょう。新しい社会の訪れに抵抗することはできないので、そのなかでね。

電子書籍を利用して、絶版したものを復活させたい



小阪裕司氏: その中で、この既存書籍の電子化っていう問題はどういう風に皆で良い形に持っていけば良いんだろうかっていうのは、すごく思いますよね。最初から、電子書籍も出せば良いということですけども、実際に、最初から電子書籍が出るのかっていうと、これがまたなかなか出ないんですよね。今文献なんかの問題も、学会ではすごく議論の的にはなるんですけど、今ひとつ進まなかったりとか。過渡期ですからね。微妙な状況があるのかなと思います。でも、時代が変わるということは、誰も止めようがない。だから、かえって、議論しないことの方が危険だと思う。それから、電子化に対する際の、私の希望の1つは、絶版したものを復活させてほしい。名著の宝庫ですよ。私が本当にインパクトを受けた何冊もの本がね、全部絶版です。つまり、多くの方は現在その「知」に触れられない。大問題ですよね。

――大問題ですよね。


小阪裕司氏: でも、従来の社会のシステムの中では、それが精いっぱいだったわけですね。この問題っていうのは新たなICTの技術によって解決し得るのではないかと思います。そのなかで、みなさん知を生み出して流通することにかかわる。全ての人に恩恵がある形で。もちろんその恩恵に対しては、一番読者が対価を支払わなければならない。私自身も実質絶版書があって、それは入手困難なんですよ。幸いなことに最近の本もよく売れているんですが、新しい読者が増えると、その人たちも「これが読みたいな」って思うみたいですけれど、読めないんですよ。でも出版社の事情も分かるんですね。実際に、長い間マーケットであまり動いてないものを、またどばっと増刷して、それでどうするというそういう事情も分かるけれど、じゃあまた同じような文章を書いて別の出版社から出すってわけにはいかない。そうすると、そこの本の中に込めた知は、それ以上どこにも広がらないということになってしまう。それは、著者的にも何とかならないかなって思うところです。それに、私自身がそうやって絶版になった本から多大な恩恵を受けてきて、それは、たまたま古本屋巡りをしたので出会えたけど、何かそうじゃない社会システムはないんだろうかと思いますよね。

著書一覧『 小阪裕司

この著者のタグ: 『エンターテインメント』 『思考』 『映画』 『ビジネス』 『研究』 『広告』 『自転車』 『独立』 『アパレル』 『良質』 『実践知』 『消費』 『心』 『豊かさ』

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