大企業でも八百屋でも、必要なフレームやメソッドは同じ
――そのフレームワークやメソッドを広めていらっしゃるんですか?
小阪裕司氏: そうなんです。例えば私は、大企業に対しても、八百屋さんに対しても同じフレームやメソッドを提供しています。そうすると大企業の方は、何となく「大企業では難しいのじゃないか」って思ったり、八百屋さんは八百屋さんで、「小さな八百屋さんでは難しいんじゃないか」と思うわけです。実際に、大企業と小さな会社の違いは経営的には大きいでしょうけれど、お客さんの心をつかんで動かすとか、心をつかみ続けてファンでい続けてもらうっていうことで考えると、規模は関係ないわけです。規模の大きな会社っていうのは、ファンが5千万人いて、規模の小さな会社はファンが5百人だというだけの違いです。しかも、規模が大きかろうが小さかろうが買うのは1人のお客さんなんです。例えば、一日に5千足靴下が売れる会社だって、5千本の足を持っているお客さんが買うわけじゃなくて。1人のお客さんの延べ5千回です。ですから、人の感性と行動に着目して、そこからビジネスを組み上げるってことは本当に誰でも使える方法論なんです。でも、ビジネスの本質に対する誤解がまだまだある気がしますね。
実践会では、街のおやじさんやおかみさんたちが利益を上げている
小阪裕司氏: 私は実践会という、私が提唱するフレームワークやメソッドを活用する企業と個人の会をやっていますが、彼らでも入会したてで、すぐに大きな成果を出せる人はほとんどいません。まずは他の企業がやったことを見よう見まねでやってみたり、半信半疑でやってみたり。それから、既にその実践知を身につけている人たちが近くにいると、それだけでどんどん上達するんです。それは、慶応大学の井庭先生の言葉を借りると、「場につかる」って言います。
――場につかる、ですか。
小阪裕司氏: つかるんです。つかるだけで上達するっていうのは、実践知の特色なんです。会員さんが、実践会に来て先輩たちと語り合っているだけで、成果が上がってくる。それはどうしてかっていうと、そういう場の何でもない会話の中にすでに学びが埋め込まれているからなんです。そこでどんどんものの見方、思考法が変わってくるんですよ。そうすると当然思いつくことも自分がやったことに対する検証も、全部レベルが変わってきて、成果が上がられるようになりますね。
成果を上がるには学歴は関係ない
――どういった方が成果を上がられましたか?
小阪裕司氏: クリーニング店のおやじさんとか、薬局のおかみさんなど、どこにでもいる業種の方々がすごい成果を上げています。
――柔らかい考えを持った方の方が先入観なく、小阪さんのお考えだとか話をちゃんとそのまま吸収できるんでしょうか?
小阪裕司氏: 柔軟さが持てるかどうかが大事です。今は世の中が最も大きく変わろうとしているまさにその過渡期なので、物事を見るフレームそのものを変えていかないといけない。そこには柔軟さが絶対的に要求されます。柔軟であるかどうかは、年齢とか学歴とか関係ないですし。
――いかに今まで気づかなかったところが多かったかっていうところに問題があるんでしょうか?
小阪裕司氏: そうだと思いますね。だから、自分たちが持っているものや、やっていることや提供できる商品やサービスが、顧客に取ってどんな価値があるのか。それをどううまく伝えるかっていうことに解決の道があるんですよ。それはこの本の大きなメッセージです。世の中が変わるからといって、その新しい世に合う新しいものを作らなきゃいけないかというと意外とそうではない。実際に私は会員さんたちを見ていて、古い業者の人たちや古くからある商品が軒並み業績を伸ばしてます。例えば呉服店でも、最近ぶっちぎりで伸びている会社が何社もあります。
新しい消費欲求は「毎日を心豊かに過ごすこと」
小阪裕司氏: 幸いなことに、日本は新しい消費社会に30年位間前から移行しつつあります。新しい消費欲求っていうのが、どんどん大きくなってきている。その欲求は、簡単に言うと、心を豊かに、毎日を精神的に充足して過ごすということ。大げさなことなくて良いんです。毎日ささやかに良い人生だなあと思って過ごしたいという欲求です。これは、今強力に広がっています。この新しい欲求が広がってくると、ビジネスチャンスがある。しかも、ここに意外と旧来の商品やサービスが合致するんですよ。
――例えばどういったサービスがありますか?
小阪裕司氏: 例えば、糀(こうじ)の甘酒なんていう極めて古いものを製造し販売する会社が、ものすごく今伸びています。この会社の一号店は新潟のシャッター通りと呼ばれるところに作ったんですが、行列のできる店になりました。今は東京にも出店していますが、人気店です。最近では大手の製薬メーカーさんと商品を共同開発しましたが、これも大人気です。やはり、心の豊かさがこの社会の特徴だと思うんですよ。そこに、旧来の技術がマッチして、心の消費の中でちゃんと生きていく、また、生かされていき、新しい輝きを放つ。もちろん、新しい業種だって伸びますしね。
――色んな意味で、ビジネスが過渡期に来ているんですね。
小阪裕司氏: そうですね。あまりにも新しいので、フレームが扱いにくい。しかもその上に、ICTの発達っていう激烈な変化がダブルで訪れていて、こんな時代はそう過去にはないでしょう。例えば産業革命なんかは当時の人にとっては、センセーショナルなことだったでしょう。当時の風物なんかを記した文献なんかを読むと、もう本当に世界がひっくり返るような出来事だったみたいだから。
――それは、その時代に生きていた人たちも実感しているものだったんですか?
小阪裕司氏: そうですね。当時のフランス、パリの様相とか文献が残っていますが、熱狂的ですよ。だってそれ以前は工業製品ってものがなかった時代で、工業製品を店で買うなんてなかったことだから。それが、世界で初めてパリで始まった。その当時のパリ市民は熱狂ですよね。その産業革命以降、新しい消費がどんどん現れた時代と今とはよく似ています。そして今は何がそのベースにあるかっていうと、心の豊かさとICTだと思う。これが、ドッキングして来ているからすごいことになっているんです。
著書一覧『 小阪裕司 』