小阪裕司

Profile

山口大学(美学専攻)卒業後、大手小売業・広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」設立。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。全都道府県から千数百社が集う。学術研究にも注力し、2011年に博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。「日経MJ」(日本経済新聞社)での長寿コラム「招客招福の法則」が人気を博す他、連載・執筆多数。産官学にまたがり年間80回以上の講義・講演を行う。九州大学客員教授、静岡大学客員教授、宇都宮大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。
【公式サイト】http://www.kosakayuji.com/

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大学では「美学」を専攻を研究していた


――小阪さんが、世の中に分かりやすく物事を伝えよう、色々発信していこうと思われたきっかけを、学生のころからひもときたいと思います。学生のころにはどのようなことをしてらしたんですか?


小阪裕司氏: 美学をやっていまして。美しい学問と書きます。「美しいものは何」とか、「美しいとは何ぞや」ということをやるんです。つぶしのきかない学問で、ほぼ就職先がない(笑)。多くの大学が文学部哲学科の中にある学科で、哲学の一種と言えます。私は、そういうことに興味があったんです。さっき申し上げましたが、私、映画監督になりたかったんですね。映画を作るってことは、子どものころから志していました。本当に幼いころから、ものすごく映画が好きなんです。昔はゴジラとかの怪獣映画ですけどね。で、中学のころは洋画にはまって。当時は3本いくらとかで上演している名画座っていうような映画館に入り浸ってました。それで、自分でも高校、大学と映画を撮り初めました。

――ビジネスへの興味はありましたか?


小阪裕司氏: 実は、ビジネスには何の興味もなかったんです。もう経済とか何の関心もなかったですね。それで大学で美学を専攻しまして、卒業してもそういうことをやろうとしか思ってなかったですね。

広告代理店に就職したはずが、なぜか婦人服売り場へ配属


――最初に就職したのは広告代理店でしたね。


小阪裕司氏: 博物館学員の資格を取って、美術館勤めの流れがあったんですけども、美術館で実際に実習して、ちょっと違うなって思ったんですね。それでイベントをやろうと思って広告代理店を受けて、内定をもらったはずだったんですけど、それが大手流通グループで配属されてみたら洋服の売り場だったんですよ。これはもう驚天動地というかね。だってビジネスに関心がない人間で、小売店でバイトをしたこともないのに、いきなりね、「婦人服を売れ」ですよ。いきなり売り場のチーフを任されて、他の方はみんなパートさんです。で、毎日奥さま方がいらっしゃって、スカートとか、ブラウスとかお洋服を買っていただき、「お似合いですよ」とか言うようになる。

――どんなお気持ちだったんですか?


小阪裕司氏: 一日も早く辞めてやろうと思いました(笑)。本当に関心がなかったですし、つまらないし。ところが、ある日開き直って、「これを楽しんでやるか」と思って、創意工夫してみた。やってみたら、なかなか面白いんですよ。もともと美学に行ったのも、美術品とか美術史に興味があったわけじゃなくて、私の関心は「どうして人は美しいと感じるんだろう」というところなんですね。例えば同じものを見ても、「美しい」と感じる人もいれば、「なんじゃこれ」って思う人もいる。その違いってどこから出てくるんだろうかということを美学では研究していた。その観点をね、ちょっと持ってみたんですよ、売り場で。同じ商品なのに置き方を変えると、魅力って変わるんだろうかとかね。来てくれるお客さんと来てくれないお客さんがいるのはなぜなんだとか。そういう風に考え始めたら、仕事が面白いものになってきて、ほとんど本部の言うことを聞かないで自分で勝手に売り場で色んな実験を始めたんです。そうするとね、面白い具合にお客さんの行動が変わって、売り上げがぐーっと上がって来るんですよ。それで、その面白さに取り付かれました。

切り口は「婦人服」でも、「人の心と行動」を研究することで売り上げが上がった


――視点を変えたら、イヤだったものが面白いものに変わったんですね。


小阪裕司氏: 結局は私の関心事は首尾一貫していて、「人の心と行動」なんですね。「人の心と行動」という側面から売り場を見て色々実験をして、売り上げが上がり始めると面白かったですね。全く同じ商品で全店で全然売れてないのに、私の店だけ売れるんですよ。表現の仕方とか、ちょっとしたことで違ってくるんですね。

――美学で学んだことをビジネスの場で実践されたんですね。


小阪裕司氏: あとはね、売り上げが上がって来ると皆に褒められます。すると、好きなようにやらせてもらえる。そうしてこのまま婦人服も良いかもなんて思っていたら、もともと希望していた広告代理店の方に来ないかって言われまして、移動したんですね。それからしばらくイベントの仕事、博覧会とか舞台とかをやりました。そうこうしてるうちに、経済とか経営からの流れではないマーケティング観点で活動なさっている方との出会いもあって、独立して、「感性と行動」というものを軸にビジネスをとらえていくことをやっていこうと思いました。

――独立されたのは何歳の時だったんですか?


小阪裕司氏: 私は29歳で会社を作りました。そのころにはこういうことを人に伝えたい、店とか商品に具体的に形にしたいっていう思いがすごくありました。

今、ますます思考法が大事な時代になっている


――視点、考え方ひとつで人生が大きく変わっていったんですね。


小阪裕司氏: 大切なのは思考なんです。どんどんと思考法が大事な時代になってきています。複雑性の社会システムの上では、同じ事象は二度と起こらないんです。その現象を引き起こすために必要な要素がちょっとでも変わると、違う現象が起きてしまう。そんな現代社会で思考法がなぜ大事かと言うと、例えばほかの人がやってうまくいったことの中には、普遍的な、同じような現象を引き起こせる要素はいくつもあるんだけど、その要素を見い出して、自分なりに思考できて、しかも自分も自分の現場に落とせないといけないんです。これが従来の社会とすごく違う点だと思うんですね。われわれが工業社会と呼んでいる従来の社会では、あまり複雑性の社会にありがちな現象が起きないので、ほかの人がやったことを単にまねできる。あるいは例えば、「この5つさえやっておけばうまくいく」とか。そういう風にして実際にうまくいっていました。ですから、例えば大規模チェーンなんてものも生まれたんです。そこでは「だまってこれをやれ」っていうタイプの仕事で、そういう指示が降ってくる。あとは、まじめにその指示をちゃんとやるのが仕事です。でも今はそうじゃなくて、自分で考えて、自分の現場で最適な解、快適な解を作るっていうことが大事なんです。

著書一覧『 小阪裕司

この著者のタグ: 『エンターテインメント』 『思考』 『映画』 『ビジネス』 『研究』 『広告』 『自転車』 『独立』 『アパレル』 『良質』 『実践知』 『消費』 『心』 『豊かさ』

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